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WJ連載中「ト/リ/コ」の腐/女/子サイト  【Japanese version only.】

2024'11.23.Sat
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2011'01.23.Sun
自分で言うのもなんですが、この更新ペースはあほだ。

4-4/リーマンココマ

「ま、諦めないし?」
 サニーが軽やかに小松をアパートまで送ってから数日が立つ。衝撃の初対面が嘘のようになんのコンタクトもなくて小松は拍子抜けした。
 今年最後の月に突入して、クリスマス前に本格的に忙しくなろうとする平日に、早シフトであがる日小松とココの休日が重なった。
 この日はココにご飯を食べに行こうと誘われていた。修理に二ヶ月かかったという車は藍色に近い黒で珍しい色合いだ。ココはセーター一枚で現れて小松に「風邪をひきますよ」と小言を受けた。それにたいしてココは「頑丈だから」と交わし、小松を助手席に乗せる。ロゴを見れば「エンペラークロウ」と聞いたことのないメーカーだ。高級そうな車に、小松は乗るとき汚しやしないかと慎重になった。
「パスタが評判のお店でね」
 ココは基本的に小松の料理が好きだが、若き料理長に味の勉強をさせることも忘れていない。育成熱心だと小松は感謝する。メディアにとりあげられるだけが美味なる店じゃない。
 行き着いた先は、先日サニーと来た店だった。
「あ」という小松の呟きに、「もしかして知ってるお店だった?」とココが聞き返す。
「サニーさんに連れてきてもらいました」
「サニーと?」
 ココの返事のなかに小松は「ついていかないように」と注意を受けたのを思い出してびびるが、彼は何事もなかったように店内に入った。小松は安堵とともに後に続く。
 メニューはクリスマス使用になっていて予約制だったが、ココがあらかじめ予約をしていてメニューは滞りなくテーブルに現れた。ココのスマートな流れに小松はいつも感心する。
「言って引き下がる奴じゃないから、大人しくしてるとは思わなかったけど」
 車だからとアルコールは控えたココは、ソフトドリンクで咽を潤す。飲み物を飲むような自然な会話に小松はつられた、「まさか初対面のその日に待ち伏するとは思ってませんでした」と正直にこたえた。
「その後は連絡あった?」
「いいえ」
 ココの質問は食事をしながら続けられた。
「ぼくは本店から離れるつもりはありませんよ」
 会話の流れにおかしさを感じて小松は先制するように言った。移動の希望が認められていても、平社員の一存で人事が決定するはずはなく、ココの心配は杞憂だと小松は思う。
「あいつは自分のこだわりのためなら妥協しないから、安心できない」
「ぼくが移動を望まなくても?」
 小松は肝心なことを口にした。
「望まなくても、だ。油断できないことはいくらでもある。自分が本店に勤める料理長だって自覚はあるの?」
 ココのからかうような台詞には小さな棘があった。小松は知らないが、彼を強引な方法で本店料理長に就かせたココとしては、サニーが本気をだせば荒れることが予想できていやになる。
「きみは渡さない、誰にも」
 情熱的な言葉に、前菜のサラダを食べていた小松が顔をあげた。真剣な顔を真正面から見る。身長差のため普段ココの顔は見にくいが、座れば間近で見ることになり、彼の美形ぶりに小松は息を呑んだ。
「きみはぼくの料理人だ」
 真摯な響きは、小松の心を打つ。嬉しいと、単純に一言、気持ちが生まれる。ココほどの男に望まれる自分の腕が誇らしかった。
「ぼくはココさんがいる本店でがんばります」
 小松が力んで宣言すれば、ココの目が驚きで丸くなる。伝え方がまずかったのかと小松が思い、慌てて付け足す。
「料理長として今後もがんばりますので、ご指導ご鞭撻をよろしくお願いします、店長」
 座ったまま頭を下げれば、「こちらこそ」と歯切れの悪い口調でココが返す。
 話は、テーブルにでてきたメインに小松の心が奪われたことにより消えた。ココの苦笑に気づかないままデザートまで平らげた小松は、ほどよく入ったアルコールのおかげで気分がよくなる。ココの車でアパートに送られ、暖かい車内から冷たい外気に晒されて小松は身震いした。吐く息が白い。
「ちゃんと上着を着ないと風邪をひくよ」
 運転席から降りたココが、小松の荷物を持ち、上着に袖を通すように促す。急いで着たせいか着崩れてしまい、ココは小松の衣服を整えた。
(酔ってて危なっかしいのかな、ぼくは?)
 ココの過剰な優しさの理由が思い当たらず、アルコールで熱くなった頬を手でこする。襟を整えるココの冷たい指先が、小松の首筋に触れて肩が跳ねる。しかしココは何事もなかったふうに微笑んで小松から離れた。
「おやすみ、小松くん」
 あいさつをして車に乗り込むココを、小松は見送る。
(酔っている、みたい)
 胸の鼓動と体温の上昇の理由が、アルコール以外に思い浮かばない。ふわふわとした気持ちをもてあますかのように、小松はアパートに帰ると冷たい布団に潜って寝た。

続く

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