サニーと松は書いてて楽しい。
4-3/リーマンココマ
サニーが小松を案内したのは人通りの少ない場所にある小さなカフェだった。木のぬくもりがする店構えは周囲の雰囲気に溶け込み、洒落た造りが嫌味にみえない。いいバランスだと小松は思う。そしてメニューの少なさがいっそ清清しかった。
が、食材を見て小松はびびる。
(ネオトマトのパスタに、クリーム松茸のカルボナーラって)
ひとつひとつが贅沢だ。
(そういえば、ココさんはネオトマトが好きだって言ってたなぁ)
小松はネオトマトソースのアラビアータを注文し、サニーはクリーム松茸のカルボナーラを頼んだ。
「話が途中だったし」
サニーは手紙を入れる小さな封筒を小松に渡した。四つ折りにされたのは手紙ではなく企画書だ。第一案なのか、内容はシンプルに書かれていた。事情に詳しくない小松は簡単に理解できる。サニーが提案する食材を使ったもので、料理を作れる料理人が必要だった。それは、そこら辺の料理人ではダメだというのがサニーの意見だ。
「ひらめきとセンス、料理への挑戦ができる奴じゃないとだめだ」
「ぼくの腕をみこんでくれたのは嬉しいのですが、ぼくじゃなくても立派な料理人はいますよ?」
何故、わざわざ自分なのかが小松にはわからなかった。
「おまえ以上の料理人はいっぱいいるけど、おまえの料理はおまえしか作れないし。おまえがいいって思ったおれの直感が理由だ」
サニーの言い分はつっこみどころが満載で小松はなにもこたえられなかったが、熱意だけは伝わった。
「崩れかけていた本店を持ち直した腕は絶品だし。ココ自ら店長に居座るだけのことはある。あいつの目を盗んで店に通うのは大変だったぜ」
サニーがいたずらっぽく笑う。とっつきにくい印象が一気に和らいだ。
小松の味に出会ったのは偶然だと説明だとサニーはして、時間帯、曜日を変えて小松の料理を食べに通っていたと言う。
「移動に関してはぼくの一存では決められませんが、もし希望が叶うとしても、今のお店から離れる気はありません」
小松は自分の意思を告げた後、サニーに謝罪した。立て直した店と言われても、まだ不安要素は多い。安定には時間がかかると小松は考えている。
「ココがいるから?」
サニーの言葉に小松は首を傾げた。
「ココさんが? 何故です?」
「何故って、そりゃあ・・・」と言いかけてサニーは口を閉ざす。「なんだ、違うのか、てっきり」サニーは小松を置いて独り言を呟いていた。呟きを聞いても小松は理解できずに首を傾げる。
「トリコのガセネタかな」
サニーの口から、ガララワニ捕獲から帰ってきた男の名前がでる。トリコが帰った話を小松は聞いているものの、会っていないので懐かしく思った。
「トリコさんはお元気ですか?」
気になって小松が聞けば、サニーはこたえた。裏表のない話方に小松は好感を持つ。ストレートで気持ちがいい。歯に衣を着せない点ではココと同じだが、爽快さでいえばサニーが上だと小松は思う。このひとと仕事をするのは楽しそうだと浮かんだ考えは、ココと並んで立つレストラングルメの風景によって消えた。
ココと乗り越える仕事は楽しいというより嬉しいのだという考えに辿りつき、両者の違いを小松は疑問に思った。
(なんだろ?)
胸の中のもやもやを、小松はかたちにすることができないままパスタを口にした。
「ところで、ココの好きな奴が誰か知ってる?」
サニーの質問に、小松はパスタを咽を詰まらせそうになる。
正直に「知りません」とこたえた小松を、サニーは意味ありげに視線を送る。
「いくら職場が一緒だからって、そこまでプライベートに立ち入りません」
こたえながら小松は、ココの部屋に泊まったり、ご飯を作ったり、職場以外の場所でも会っている自分を思い出した。上司と部下にしては親密な気がするし、友人と呼ぶにはなにかが違った。
『小松くん』ココの呼ぶ声は優しく、聞き慣れているのに毎回心地よさに小松は心が惹かれた。
(あまい声)
そのひとを思い返す感情の正体がわからず、小松は「いいひと」と納得させた。小松の百面相はサニーに「ぶさいくな顔」とからかわれるまで続いた。
続く