2011'03.13.Sun
小松くんの苦境が続きます・・・!!
※軽くDO☆的表現あります。
6-8/リーマンココマ
「ひどい真似は、しないよ」
そう言ってココは、しばらく口を開かなかった。彼の葛藤を小松は感じる。側にいて、間近で彼の優しさを受けとり、それが全部好意からだとすれば、随分残酷に甘えてきたとことになる。申し訳ない反面、嬉しくもあり、逃げ腰になる。
(ぼくよりも、ココさんにふさわしいひとはいる。料理しかできないぼくよりも)
暗い思考が小松について回った。はじめて、ココに会った日は今でも覚えている。狭苦しい満員電車のなかで彼だけが輝いていた。仕事も背筋を伸ばしてこなす。完璧ばかりでなくて、たまに食事を忘れて盛大に腹の虫を鳴らすかわいらしさもある。彼の隣に立つ女性は素敵なひとだと小松は勝手に想像していた。
(なにも、ぼくなんか)
ココの気の迷いとしか小松は思えない。今の彼は考えのすべてが悪い方向に向かう。
気がそれた小松の意識を、引き戻すかのようにココが衣服の上から小さな体を撫でる。怪しげな手の動きに小松は焦った。
「う、う」
声の自由を失った小松は、唸り声でしか抵抗できない。
「大人しくして」
片方のココの手が、小松のネクタイにかかる。首元が緩んだおかげで呼吸が楽になったが、ボタンを外されて息が止まりそうになる。着慣れないスーツはそれだけで小松の動きを鈍らせた。
ひどい真似をしないといったココを信じたいが、彼の行動はさきほどの言葉と合わず、小松を恐怖に陥れる。
(まさか)と何度も想像を否定する。
「ん!」
ココの手が下肢に触れた。社内で、壁のむこうにはひとが行き交うなかでの乱暴だ。
「きみが迷う暇は与えない」
ココは小松のベルトを外そうと手を伸ばす。自分の身につけているものが他人に剥ぎ取られていく様を、小松は大人しく受け入れる気はなかった。
ココも同様に、逃げようとする小松を黙って見送るつもりはない。小松に乱暴な真似はしたくない気持ちは本当だ。ただ、伴わなかった。
「好きだよ」
余裕のない声しかでない。平素の小松ならひとの心を察することもできたが、彼も切羽詰っていた。抵抗しかできないから、ふたりの間がますます悪循環になる。
力づくでココを押し返そうとしても、体格差がものをいい、小松では覆いかぶさる男の体をどうにもできなかった。
ふいに、ココのデスクから振動音が響いた。マナーモードの携帯電話が着信を訴えているが、ココは見向きもしなかった。一度静かになった携帯だが、一分後また鳴り響く。連続の電話にココの意識がそれた。その隙に小松は力いっぱいココを押し返したが、力負けして自分がソファから落ちてローテーブルに頭を打ちつける羽目になる。
「いて」
「小松くん!」
ココが叫ぶ。
「大丈夫?」
伸びた手を小松は払った。
「近寄らないでください」
のろのろと立ち上がる小松を、たまりかねてココがもう一度手を伸ばせば、「触らないでください」と、今度は手ではなく言葉で拒絶した。顔色を失うココを見て、小松の心が罪悪感で満ちていく。耐えられなくて小松はココから逃げた。
(いやな奴だ)
ココのやり方はどうであれ、ひとの好意を無下にする自分がいやになる。
重役フロアと、昼時のためか通路は誰もいなかった。衣服を整えるためフロアのトイレに駆け込もうとするが、手前でひととぶつかった。
「すみません」
小松は小さな声で謝罪して男の横を通り過ぎようとする。
「小松シェフ?」
聞き覚えのある声に顔をあげれば、会議室で会ったばかりの男、カステロだった。梅田の執務室から出てきた彼は、小松の恰好を上から下まで見やり、意味ありげに笑った。
「この先にはココの部屋があるね」
小松の身になにが起きたのか見透かす台詞だった。小松はなにも言えなくなる。
「着なれないスーツに、息苦しくなって」
苦しい言い訳しかでてこない。ぼろが出ないうちにカステロの前から去ろうとする小松の考えは賢明だが、男はそれを許さなかった。
「きみみたいなちんくしゃを、ココが気に入るのか謎だ」
男の悪意を、小松は黙って受け止める。
「純粋に料理の腕が評価されているなら気になるね」
続く言葉にも、小松は言い返さなかった。
反応のない小松の態度を抵抗と感じたのか、カステロは苛立った。
「昼間からこんな痕をつけて」
カステロの手が小松の首筋に伸びて、とある部分を擦った。ココに噛まれた痕だと気づいて小松は青褪める。カステロはココが落とした痕をなぞるように舐めた。気持ち悪さに小松の全身に鳥肌が立つ。呆然とする小松を置いてカステロは去った。
ココにされたことも、ココに投げつけた暴言も、卑小な自分も、小松のなかから抜け落ちた。
カステロの嫌がらせに気持ち悪さが際立って体の力が抜ける。立て続けのショックに体が重くなり歩くのさえも苦痛だ。小松は衣服を適当に整えると、社内に設置されてある医務室のベッドを借りた。
「少し休ませてください」
まっさおな顔で告げる小松に、医務室の管理を任されている社員はベッドに寝かせた。IGOと提携のある病院に行った方がいいと勧めるが、今は休みたいとだけ言ってベッドに潜りこめば、すぐに眠りに落ちた。
(現実逃避だ)
最後の意識が小松にささやいた。
続く
「ひどい真似は、しないよ」
そう言ってココは、しばらく口を開かなかった。彼の葛藤を小松は感じる。側にいて、間近で彼の優しさを受けとり、それが全部好意からだとすれば、随分残酷に甘えてきたとことになる。申し訳ない反面、嬉しくもあり、逃げ腰になる。
(ぼくよりも、ココさんにふさわしいひとはいる。料理しかできないぼくよりも)
暗い思考が小松について回った。はじめて、ココに会った日は今でも覚えている。狭苦しい満員電車のなかで彼だけが輝いていた。仕事も背筋を伸ばしてこなす。完璧ばかりでなくて、たまに食事を忘れて盛大に腹の虫を鳴らすかわいらしさもある。彼の隣に立つ女性は素敵なひとだと小松は勝手に想像していた。
(なにも、ぼくなんか)
ココの気の迷いとしか小松は思えない。今の彼は考えのすべてが悪い方向に向かう。
気がそれた小松の意識を、引き戻すかのようにココが衣服の上から小さな体を撫でる。怪しげな手の動きに小松は焦った。
「う、う」
声の自由を失った小松は、唸り声でしか抵抗できない。
「大人しくして」
片方のココの手が、小松のネクタイにかかる。首元が緩んだおかげで呼吸が楽になったが、ボタンを外されて息が止まりそうになる。着慣れないスーツはそれだけで小松の動きを鈍らせた。
ひどい真似をしないといったココを信じたいが、彼の行動はさきほどの言葉と合わず、小松を恐怖に陥れる。
(まさか)と何度も想像を否定する。
「ん!」
ココの手が下肢に触れた。社内で、壁のむこうにはひとが行き交うなかでの乱暴だ。
「きみが迷う暇は与えない」
ココは小松のベルトを外そうと手を伸ばす。自分の身につけているものが他人に剥ぎ取られていく様を、小松は大人しく受け入れる気はなかった。
ココも同様に、逃げようとする小松を黙って見送るつもりはない。小松に乱暴な真似はしたくない気持ちは本当だ。ただ、伴わなかった。
「好きだよ」
余裕のない声しかでない。平素の小松ならひとの心を察することもできたが、彼も切羽詰っていた。抵抗しかできないから、ふたりの間がますます悪循環になる。
力づくでココを押し返そうとしても、体格差がものをいい、小松では覆いかぶさる男の体をどうにもできなかった。
ふいに、ココのデスクから振動音が響いた。マナーモードの携帯電話が着信を訴えているが、ココは見向きもしなかった。一度静かになった携帯だが、一分後また鳴り響く。連続の電話にココの意識がそれた。その隙に小松は力いっぱいココを押し返したが、力負けして自分がソファから落ちてローテーブルに頭を打ちつける羽目になる。
「いて」
「小松くん!」
ココが叫ぶ。
「大丈夫?」
伸びた手を小松は払った。
「近寄らないでください」
のろのろと立ち上がる小松を、たまりかねてココがもう一度手を伸ばせば、「触らないでください」と、今度は手ではなく言葉で拒絶した。顔色を失うココを見て、小松の心が罪悪感で満ちていく。耐えられなくて小松はココから逃げた。
(いやな奴だ)
ココのやり方はどうであれ、ひとの好意を無下にする自分がいやになる。
重役フロアと、昼時のためか通路は誰もいなかった。衣服を整えるためフロアのトイレに駆け込もうとするが、手前でひととぶつかった。
「すみません」
小松は小さな声で謝罪して男の横を通り過ぎようとする。
「小松シェフ?」
聞き覚えのある声に顔をあげれば、会議室で会ったばかりの男、カステロだった。梅田の執務室から出てきた彼は、小松の恰好を上から下まで見やり、意味ありげに笑った。
「この先にはココの部屋があるね」
小松の身になにが起きたのか見透かす台詞だった。小松はなにも言えなくなる。
「着なれないスーツに、息苦しくなって」
苦しい言い訳しかでてこない。ぼろが出ないうちにカステロの前から去ろうとする小松の考えは賢明だが、男はそれを許さなかった。
「きみみたいなちんくしゃを、ココが気に入るのか謎だ」
男の悪意を、小松は黙って受け止める。
「純粋に料理の腕が評価されているなら気になるね」
続く言葉にも、小松は言い返さなかった。
反応のない小松の態度を抵抗と感じたのか、カステロは苛立った。
「昼間からこんな痕をつけて」
カステロの手が小松の首筋に伸びて、とある部分を擦った。ココに噛まれた痕だと気づいて小松は青褪める。カステロはココが落とした痕をなぞるように舐めた。気持ち悪さに小松の全身に鳥肌が立つ。呆然とする小松を置いてカステロは去った。
ココにされたことも、ココに投げつけた暴言も、卑小な自分も、小松のなかから抜け落ちた。
カステロの嫌がらせに気持ち悪さが際立って体の力が抜ける。立て続けのショックに体が重くなり歩くのさえも苦痛だ。小松は衣服を適当に整えると、社内に設置されてある医務室のベッドを借りた。
「少し休ませてください」
まっさおな顔で告げる小松に、医務室の管理を任されている社員はベッドに寝かせた。IGOと提携のある病院に行った方がいいと勧めるが、今は休みたいとだけ言ってベッドに潜りこめば、すぐに眠りに落ちた。
(現実逃避だ)
最後の意識が小松にささやいた。
続く
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