6-12/リーマンココマ
目を覚ました小松は、自分の居場所がすぐに把握できなかった。ココのマンションに泊まる場合、目覚めれば彼がいつも目の前にいたからだ。
小松は最後の記憶を思い出す。セックスに疲れて気を失ったのだ。心労と、それが解放された小松は、今までの疲れを癒すかのように眠りに落ちていた。
大きなサイズのシャツはココのもので、体を確かめれば、精液で汚れていた部分にこびりついたものはなかった。誰がきれいにしたか、考えなくてもわかる。二日連続で迷惑をかけて、小松は頭を抱えた。
「飲み屋の勘定が」
立て替えてもらったお金も返していないだめっぷりに、再びベッドに潜りたくなった。
「起きた、小松くん?」
寝室にココが顔を見せる。
「はい、ご迷惑をおかけしました」
「シャワーを浴びるといいよ」
「ぼくの服はどこでしょう?」
小松は、下着さえも身につけていなかった。
「洗濯中。ご飯を食べ終える頃には乾燥もすんでいるよ」
(それまではノーパンか・・・)
ココの視線が気になる小松だった。
「いつでも泊まれるように、今度、着替えを持っておいでよ」
何度も泊まったことのある小松に対して、ココが提案したのははじめてだった。新しい関係をはじめようとするココに小松は嬉しくなる。今までの、上司と部下とは違う位置で、お互いを見て、新しい発見とともに幸せを感じていくのはこのうえない喜びだ。
シャワーを浴びると、テーブルにココが作った朝食が並んでいた。
「いつも小松くんに任せっぱなしは悪いからね」
忙しくて作る暇がないから作っていないだけで、もともとココは料理が好きだ。とてもシンプルでシェフに食べてもらのは恥ずかしいと付け足す。
野菜のスープや、スチームケースで蒸した温野菜。試供品でもらったパンをトーストしてベーコンの葉をサンドする。薫るコーヒー。
「おいしいです」
一口食べて、伝わってきた。ココの愛情や優しさが胃に染みる。おいしさとは別の味わいだ。
それは、ココが小松へ作る料理だからこめられた愛情であって、小松以外の者が食べたら「うまい」の一言で終わるだろう。
(ぼくも、こんな料理が作れたら)
真心をこめて料理に打ち込みたかった。
「ココさん、ぼくは、負けません」
意気込み溢れる台詞は細かい説明抜きで唐突だが、ココはうなずいてみせた。見守るココの視線はくすぐったいが、小松は笑顔になる。
「それから、ココさんが好きですから!」
再び意気込んで言えば、ココがまっかになって固まった。
「小松くん、朝から反則すぎる」
「ええ?」
なにが反則なのかわからない小松は、朝にふさわしくない大声をあげたという。
その後、小松は料理を取り戻した。味、というより自信である。迷いが消えた小松の料理は進化を続け、本店の評判に繋がった。
たまにサニーが本店に食事にきて「カフェの料理も楽しいし」と小松を勧誘したり、トリコが食材を余分に納品して「なにか作ってくれ」と食堂となにか勘違いをしていた。その都度、店長のココがふたりをあしらう。
だが、今日のココはトリコの来店にいやな顔をしなかった。
「珍しい、槍が降るかな」
と、トリコはココをからかう。
「いいことがあってね」
夕方の開店直後のせいか客はトリコ以外おらず、ココは話を続けた。
「いいこと? そういえば、おまえにちょっかいをかけてた奴が辺鄙な場所に移動になったってな」
「時間がかかったよ」
ココは自分の関与を隠そうとしなかった。
「なんでまた?」
今までカステロは何度かココに手をだしたが、その度に無視してきたのだ。ココの裏工作にトリコは疑問を持つ。
「小松くんに不埒な真似をしたからだ」
口の端を緩やかにあげて微笑むココは壮絶だった。彼の本性を知らない者が見たら腰を抜かすほどの笑みだ。
「それで一ヶ月の出張をオヤジから命令されたんじゃ、もったいなくね?」
ココと小松が付き合っているのを知るトリコとしては、余計な一言を言いたくなる。
「前々からグルメフォーチュンの視察は言われていたから、ついでに命令された感じだ。でも悪いことばかりじゃない」
「?」
「小松くんがぼくのマンションに引っ越してくる」
「マジでか?」
さすがにトリコも驚いた。
「出張さまさまだな」
同じ職場といえど半分は別部署のココとは、生活のリズムが合わず擦れ違いばかりだった。偏にココの努力で小松と過ごせる時間が作られたのだ。より、お互いが無理せずに一緒にいられるため考えたのが同居である。
「ぼくがいないときにマンションに来るなよ」
「横暴だ、いつ小松のメシを食べればいいんだ」
「千歩譲ってぼくがいるときだな」
ココは優しさのない断言をした。
なおも文句を言うトリコをココはあしらうが、客が訪れて姿勢を変えた。トリコもそれ以上のつっこみはしない。
手書きのメニューカードに書かれた本日のコースは新メニューだ。メインの肉料理を盛り上げるベリーベリーソースがトリコの心を惹きつける。
「うまそ」
春のかおりがした。
終わり
<あとがき>
思えばやとさんの誕生日を勘違いして急いで書き上げたため「解決してない問題なんて知らんわー!」とアップしたのが、リーマンココマのはじまりでした。
改めてみると、このタイトルがいい加減すぎて言葉がでません。
なんやかんやと長い話になりましたが、パラレルの醍醐味「大団円」に辿りつけて満足です。
萌えばかりが先走った話ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
最後まで読んでくださって本当にありがとうございます。