はいりそうではいらないR・・・。
ココさんがんば!
6-9/リーマンココマ
定時になれば誰かが起こしにくると思っていた小松は、時間を気にしなかった。体が重いだけで熱がないのが救いだ。ふいに、額に冷たいものが触れた。
「熱は、ない」
小松は半分眠りながらこたえ、続けて相手に時間を訊ねた。
「五時半、定時だよ」
知った声に、小松は目をあけた。眼前には、心配げに小松を覗きこむココの顔があった。
「医務室担当者が、小松くんが医務室にいると教えてくれてね」
小松の所在を上司に報告するのはおかしくはない。
「大丈夫?」
ココの手が小松の髪を撫でる。小松は嫌悪感がひとつもないと気づいた。ココとの接触は、恐怖や戸惑いはあっても「気持ち悪い」とは思わない。
「大丈夫、です」
気まずさが小松の声を小さくさせる。起き上がれば首に痛みを感じた。触って確認してもわからず、爪の隙間に血がこびりついていた。ココが噛み、カステロが舐めた部分だ。
血が滲むほど掻いた痕を見てココの表情が曇った。
「そんなにも、いや、だったんだね」
強張った声でココが呟く。す、と小松から離れようとするココを、「違います」と叫んで止めた。
「いやとか、そうじゃなくて」
言いにくさに小松は口ごもった。
「な、舐められたのが気持ち悪くて・・・」
無意識に掻いたのだと小松は思った。首を這った感触を思い出して小松の手がまた伸びる。
「誰に?」
小松の手を掴んで、ココが怒鳴るように聞いた。
「ぼく以外の誰が、きみに触れた?」
小松を問いつめる表情には鬼気迫っていた。
「カステロ、さんです」
「あいつが何故?」
ココは隙間なく小松に質問した。
「あの後、あのひととぶつかって、首の噛み痕をココさんがつけたものだと指摘して、舐めていきました」
サニーは、カステロがココに気があるといったが、歪んだやり方だった。経験の少ない小松では理解できない情を示す男だ。
「ごめんなさい」
「きみが謝ることじゃないだろ」
小松の謝罪をココは跳ね除ける。
「そうじゃなくて、ぼくは不器用で、臆病で、ココさんを傷つけてばかりいます」
沈む声に、ココの怒りが徐々に静まる。
「承知の上だよ。ノーマルなきみを手に入れるんだ。一筋縄でいかないのは最初からわかっていた」
ココは小松を見つめたままベッドに腰かける。
「それでも、きみが欲しい」
ココは小松にキスをする。漆黒の瞳に魅入られた小松は大人しく口付けを受けた。ココは角度を変えて何度も小松に唇を押しあてた。
「流されてよ、小松くん」
優しい声は甘えを含んでいた。小松の底に嫌悪がないのを知っての行動だ。
(ずるい)
キスで抗議を解かされている間に、小松はベッドに戻された。見上げれば不安と期待と、愛情がブレンドされた切ない瞳とかち合う。求められる情熱は不安しか生まない悪循環ぶりだ。
小松が顔を背ければ首筋が露わになる。歯形と、爪が引っ掻いた痕が残る箇所をココは舐めた。
「そこ、だめです」
「なんで?」
「・・・汚いから」
違う男が触れた場所だ。間接的な行為を認めたくなかった。
「消毒だよ」
だがココは気にせず、熱心に傷跡を舐めた。濡れた感触が首筋を往復する。カステロに舐められたときのような気持ち悪さはなかった。
ココの熱が移るかのように、その部分が熱くなる。ふいに吸われて、小松は「あ、」と小さな声を零した。
「気持ちいい」
カステロと比べて呟いた言葉だが、熱に浮かされた声はココを煽った。
「もっと気持ちよくしてあげる」
ココは舌舐めずりをして小松を見た。解き放たれた欲望をさらすココに小松は震えた。
続く