2011'03.09.Wed
春コミの2冊目の入稿も終わり、一段落つきました。
週末までには春コミの販売案内をしたいと思います。
2冊とも今回はココマですが、そのうちの1冊はリーマンココマです。まるまるWEB再録になりますので、新刊色は薄いかもしれません。
週末までには春コミの販売案内をしたいと思います。
2冊とも今回はココマですが、そのうちの1冊はリーマンココマです。まるまるWEB再録になりますので、新刊色は薄いかもしれません。
6-5/リーマンココマ
翌朝、小松はココのベッドで目を覚ました。目の前に端整な顔があり、小松は心臓が止まりそうになる。
「起きた?」
ココが寝起きで掠れた声で小松に聞いた。
「なんで、ぼくはここに?」
「昨日、携帯に電話したら酔っぱらったきみが出て、酔い潰れている最中です、っていって電話を放り投げてね」
「ええ!」
「電話を拾ったお店のひとに場所を聞いて迎えにいったんだ」
「わーごめんなさい、っていうかお勘定が!」
「ぼくが立て替えておいた」
「ごめんなさい」
驚きのあまり小松はパニックになった。店にもココにも迷惑をかけた酔っぱらいの現実が痛すぎる。
「元気だねぇ」
ココが慌てる小松を見て微笑んだ。寝転がったまま小松を見上げる目が優しい。
「今日の会議は十時からだから、一度アパートに戻ってスーツに着替えて」
「はい?」
「年に一度のレストラングルメ全体会議だよ」
小松はすっかり忘れていた。地方の料理長だった小松は今まで全体会議に出席できる立場ではなかった。本店勤務のため今年は出席になったのだ。
「仕度が済んだらアパートに送るよ。そのまま一緒に出勤しよう」
起き上がったココはパジャマを着ていた。体調でも悪いのかと心配で小松が聞けば、「裸で小松くんと寝たら理性がもたない」と言ってココはバスルームに消えた。ベッドに残された小松は朝からめまいを起こした。
ココの軽口を聞くのは久しぶりだった。彼の優しさを小松は感じる。でなければ会話も交わせない。
身支度を整えたココは車で小松をアパートに送り届けた。待たせるのも悪いと小松は五分で着替え、黒の肩かけかばんを掴んでココの待つ車まで戻った。途中、ホテルで朝食を食べる。朝から豪勢な食事に小松はびびった。が、とろとろに焼きあがったオムレツを食べて「おいしい」と気持ちが高まる。スープもパンもサラダも美味だ。
「今日は会議だからね、しっかり栄養をとって」
感激しながら食べる小松に、ココはゆっくりとフォークをとった。
ふと、小松は飲み屋の代金を思い出した。「後でいいよ」とココは言う。加えて、何故電話をかけてきたのか小松は気になったが、電話ついてココが何も言わないので会議の念押しと勝手に考えた。
本社に着いたのは時間より早く、小松は会議室にひとりでむかった。ココは最終準備があるため時間ぎりぎりまで席に着けない。会議室にはすでに何名かおり、フードライン支店の中葉もいた。
会議には九組の支店の店長と料理長が集まった。司会進行役のヨハネスと議長の梅田がいるのは当然として、何故か美食屋部門のトリコとカフェ部門のサニーがいて小松は首を傾げる。
手元の資料は、各支店の売り上げもある。去年と対比グラフもあった。本店の売り上げが伸びているのは夏以降で、ココが店長についてからだ。昨年度の売り上げの冴えないグラフが小松は気になった。本店にしてはお粗末すぎると小松でも感じたぐらいだ。
だが、小松は過去の実績や事情を知るつもりはなかった。全力を尽くして料理をするのが彼の信条だ。
会議は問題なく終わった。同じメニューでありながらも個性が活かされた雰囲気があり、小松はおもしろく感じた。大きな都市で生き残る努力は他店にも活力を与える。
対して小松は、本店で目新しさや奇をてらうこともしていない。自分のお粗末さが恥ずかしくなる。
ココが他の支店長と話し合っているので小松は待っていた。今日は会議の出席で終わりだが、ココにあいさつもなく帰れない。ふと、小松に影が落ちた。四十代半ばの見知らぬ男性だ。巨大企業のため顔を覚えてない社員が圧倒的多数を占める。ネームプレートに「カステロ」と記されているが小松には覚えがない。本社勤務でないか、もしくはおいそれとお目にかかれない重役かもしれない。
「なにかご用ですか?」
失礼のないように小松は声をかけた。
「四天王に取り入る料理人がどんな者なのかと思ってね」
「四天王?」
知らない単語が出てきて小松が聞き返せば、男は失笑した。小松を小ばかにした笑い方だ。
(そんなに有名なのか?)
と小松は考える。
「地方の支店の出だと聞くけど、たいした出世だ。その人徳が羨ましい」
カステロの話の意図が掴めず小松は理解できるまで口を挟まなかったが、次第に話があって声をかけたのではないと気づく。
(難癖・・・?)
「大人しく絡まれてるんじゃねーし」
小松の背後から、彼の頭を乱暴に掻き混ぜたのはサニーだ。
「小松の背が縮むから上から押さえつけるなよ」
フォローにならない発言をするのはトリコである。
ふたりの青年の出現に、カステロの話を止めた。
「うちの料理長に、なにか?」
冷たい声で小松とカステロの間に立ったのはココだ。
続く
翌朝、小松はココのベッドで目を覚ました。目の前に端整な顔があり、小松は心臓が止まりそうになる。
「起きた?」
ココが寝起きで掠れた声で小松に聞いた。
「なんで、ぼくはここに?」
「昨日、携帯に電話したら酔っぱらったきみが出て、酔い潰れている最中です、っていって電話を放り投げてね」
「ええ!」
「電話を拾ったお店のひとに場所を聞いて迎えにいったんだ」
「わーごめんなさい、っていうかお勘定が!」
「ぼくが立て替えておいた」
「ごめんなさい」
驚きのあまり小松はパニックになった。店にもココにも迷惑をかけた酔っぱらいの現実が痛すぎる。
「元気だねぇ」
ココが慌てる小松を見て微笑んだ。寝転がったまま小松を見上げる目が優しい。
「今日の会議は十時からだから、一度アパートに戻ってスーツに着替えて」
「はい?」
「年に一度のレストラングルメ全体会議だよ」
小松はすっかり忘れていた。地方の料理長だった小松は今まで全体会議に出席できる立場ではなかった。本店勤務のため今年は出席になったのだ。
「仕度が済んだらアパートに送るよ。そのまま一緒に出勤しよう」
起き上がったココはパジャマを着ていた。体調でも悪いのかと心配で小松が聞けば、「裸で小松くんと寝たら理性がもたない」と言ってココはバスルームに消えた。ベッドに残された小松は朝からめまいを起こした。
ココの軽口を聞くのは久しぶりだった。彼の優しさを小松は感じる。でなければ会話も交わせない。
身支度を整えたココは車で小松をアパートに送り届けた。待たせるのも悪いと小松は五分で着替え、黒の肩かけかばんを掴んでココの待つ車まで戻った。途中、ホテルで朝食を食べる。朝から豪勢な食事に小松はびびった。が、とろとろに焼きあがったオムレツを食べて「おいしい」と気持ちが高まる。スープもパンもサラダも美味だ。
「今日は会議だからね、しっかり栄養をとって」
感激しながら食べる小松に、ココはゆっくりとフォークをとった。
ふと、小松は飲み屋の代金を思い出した。「後でいいよ」とココは言う。加えて、何故電話をかけてきたのか小松は気になったが、電話ついてココが何も言わないので会議の念押しと勝手に考えた。
本社に着いたのは時間より早く、小松は会議室にひとりでむかった。ココは最終準備があるため時間ぎりぎりまで席に着けない。会議室にはすでに何名かおり、フードライン支店の中葉もいた。
会議には九組の支店の店長と料理長が集まった。司会進行役のヨハネスと議長の梅田がいるのは当然として、何故か美食屋部門のトリコとカフェ部門のサニーがいて小松は首を傾げる。
手元の資料は、各支店の売り上げもある。去年と対比グラフもあった。本店の売り上げが伸びているのは夏以降で、ココが店長についてからだ。昨年度の売り上げの冴えないグラフが小松は気になった。本店にしてはお粗末すぎると小松でも感じたぐらいだ。
だが、小松は過去の実績や事情を知るつもりはなかった。全力を尽くして料理をするのが彼の信条だ。
会議は問題なく終わった。同じメニューでありながらも個性が活かされた雰囲気があり、小松はおもしろく感じた。大きな都市で生き残る努力は他店にも活力を与える。
対して小松は、本店で目新しさや奇をてらうこともしていない。自分のお粗末さが恥ずかしくなる。
ココが他の支店長と話し合っているので小松は待っていた。今日は会議の出席で終わりだが、ココにあいさつもなく帰れない。ふと、小松に影が落ちた。四十代半ばの見知らぬ男性だ。巨大企業のため顔を覚えてない社員が圧倒的多数を占める。ネームプレートに「カステロ」と記されているが小松には覚えがない。本社勤務でないか、もしくはおいそれとお目にかかれない重役かもしれない。
「なにかご用ですか?」
失礼のないように小松は声をかけた。
「四天王に取り入る料理人がどんな者なのかと思ってね」
「四天王?」
知らない単語が出てきて小松が聞き返せば、男は失笑した。小松を小ばかにした笑い方だ。
(そんなに有名なのか?)
と小松は考える。
「地方の支店の出だと聞くけど、たいした出世だ。その人徳が羨ましい」
カステロの話の意図が掴めず小松は理解できるまで口を挟まなかったが、次第に話があって声をかけたのではないと気づく。
(難癖・・・?)
「大人しく絡まれてるんじゃねーし」
小松の背後から、彼の頭を乱暴に掻き混ぜたのはサニーだ。
「小松の背が縮むから上から押さえつけるなよ」
フォローにならない発言をするのはトリコである。
ふたりの青年の出現に、カステロの話を止めた。
「うちの料理長に、なにか?」
冷たい声で小松とカステロの間に立ったのはココだ。
続く
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