怒涛の更新ラッシュが終わったら、しばらくは原稿に集中する予定です。書きかけだと気になるからリーマンココマの3話編を早く書き終えたい。
3-4/リーマンココマ
翌日は体調も元通りになったココは、時計を見計らってマンションをでた。今日は月に一度の全体会議が日だ。仕事を兼任しているためココが現在抱えている仕事は半端ではない。
いつもの車両に行けば、小松が車内にいた。朝のピークを過ぎているため簡単に見つけられる。姿を見るだけで心が浮きたつ。
「体調の方は対丈夫ですか?」
ココにあいさつをした小松はココに確認する。
「すっかり元気だよ」
ココはもう一度昨日の食事の礼を言う。
「ココさんは役職を兼任していますが、それって、大変ですよね?」
だから体調を崩すのだと、小松は言いたいことはココも察せられた。
「やりがいがあるよ。とくに小松くんと一緒に働ける店長の仕事はね」
ココの特上スマイルは、本音なだけ輝きが増した。溢れんばかりの笑顔に小松はなにも言えなくなる。
「無理しないでくださいよ?」
「疲れたらおいしいものを食べて元気をだすから大丈夫」
昨日、小松に言った台詞を繰り返す。言外に、また作ってほしいと匂わせれば、小松も察したようで「リクエストがあったら言ってくださいね」と胸を張ってこたえた。
小さな約束を少しずつ重ねる。
(今はそれだけでいい)
同じ職場なのだから焦る必要はないとココは思った。ゆっくりと、ココは確実に小松の心にはいりこむ計算を描いていた。
まずは近くにいるポジションを強固にすべく、与えられた仕事をこなすだけだ。だが、ふと、視えないことに気づいた。
ココの占いは無意識によることが多く、意識して占うのは仕事のときだけだった。しかし、占いで視た数字のおかしさにココは疑問を抱いた。資料をかき集めて照合すれば自分の占いが間違っていたことを確信する。
(変だな)
疑問に思いつつ、書類は膨大な資料を眺めつつ作成する。いつもより時間がかかったが完成した。もともと占いは補足的な意味合いが大きいので、使えなくても不安はなかった。
数日後、改めて見直した資料にミスを発見してココは愕然とした。世界の流れによって条件の変化は仕方ないとして、それ以外のミスはあってはならない。占いをあてにできない以上、ココは地道に作業するしかなかった。今まで当たり前のように頼りにしてきたが、いざ使えなくなると不便に感じる。自分の勘で流れを汲み取り読む作業が楽しくなければやっていけないと思った。
「最近、遅くまで仕事してませんか?」
レストランでの仕事が終わり、ココが本社に戻ろうとしたところ小松が声をかけてきた。レストラン業務の日はそのまま小松と帰るのが最近のココの日課だったが、仕事がたまっていて午前を過ぎても帰れない日が続いた。小松もココのオーバーワークに気づいた様子だ。
「まあ、そこそこ」
ココは言葉を濁す。ただでさえ役職を兼任しているため、気が抜けない状況なのだ。自分で選んだ仕事を「できなかった」では小松に格好がつかない。
「でも、最近はやつれたように見えます。心配です、病み上がりですし」
「体調を崩したのはだいぶ前だよ? ありがとう、心配してくれて」
ココは小松に心配させたくなくて、話をそこそこに切り上げて別れた。なにか言いたげな視線を背中に感じてココは夜道を歩く。
(どうやったらもっと余裕に思わせられるんだろう?)
小松が気にかけてくれるのは嬉しいが、心配されるのは本意ではない。見た目ばかり気にするココは、ふいに小松が言った台詞を思い出す。
「もしかして、観察されているのかな?」
同じ職場でも意識がなければ隣にいても変化に気づかないものだ。変化に気づいた小松に、ココは嬉しくなってくる。
頻繁に声をかけたり誘ったりしても、同性ゆえに、小松はココのアプローチを理解しない。恋愛対象として小松に意識させるのはどうしたらいいのか、ココはずっと手をこまねいていた。「好きだ」とストレートに言ったところで、心に響かない段階で言っても逆効果だ。
いまはまだココを恋愛対象にしていないが、それでも幸せを感じるには充分だった。
(がんばるか)
疲れたら、おいしいものを食べれば元気になる。
秋の夜風がココの火照った頬を冷やすが、彼の緩んだ表情は消えることはなかった。
続く