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WJ連載中「ト/リ/コ」の腐/女/子サイト  【Japanese version only.】

2024'09.21.Sat
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2010'11.26.Fri

週末ぐらいには完成させたい。


3-5/リーマンココマ

 一日も休みがない状況が続きココの疲労は蓄積されるが、涼しげな表情に隠され実体に気づく者はいなかった。
「おかしくねぇ? ココ」
 執務室に現れたトリコの開口一番の台詞に、時間を惜しむココはパソコンから顔をあげないで返事をした。
「書類に不備があったか?」
「不備じゃねえけど、書類作成時間とか、社内メールの送信時間とか。この二週間、二十四時間レベルでおまえの名前を見るぜ?」
「ぼく実は三人いるんだ」
「おもしろくねえこと言ってる場合か」
 トリコはココに詰め寄ると、脇のテーブルに置いてある差し入れのお菓子を食べはじめた。
「おれが気づくぐらいだ。他の連中はとっくに気づいてるぜ。気をつけな、無理して失敗するのを待ってる連中もいる」
「気をつけよう」
 トリコの忠告を無感動でココは返す。
「おまえさぁ」さきほどの真剣な声と一転する声音に、ココはようやく目線をあげた。
「なににこだわってるんだ? おまえって、博打にでることはあっても無理は絶対にしないだろ」
 トリコの疑問にココは言葉につまる。
 どちらか一方の仕事をミスしたら、強引に奪った店長の座を下ろされるのが条件だった。それだけは絶対に避けたくて仕事をしてきたココだ。だが、必死になればなるほど小松と話す時間が減り、店長職以外の日も理由をつけて店に顔をだして彼に会いに行っている。
(小松くん中毒だな)
「にやけるな、気持ち悪い」
 友人の暴言にココは「邪魔だ」と追い払った。
 トリコに食べ散らかしお菓子の残骸を見てココは頭を抱えた。換気扇の音がやけに耳に響く。
『なににこだわる?』
 トリコの疑問はシンプルだ。
 とっさにココがこたえられなかったのは、仕事に対するプライドや、自分が言った言葉の責任、小松との関係。ひとつのことだというのに、様々な思惑が重なって複雑になる。
(しかし、さすがに眠い)
 二日連続の徹夜がこたえているなか、友人の気安さから気が抜けて思考が鈍ったのかとココは考える。
 時計はディナータイムのピークを過ぎた頃だ。ココはクッションのきいた椅子に背中を預けた。一般社員は帰り、社内に残っているのは一部だ。
(少しだけ)
 ココは目を閉じる。
(そうえいば、なんで占えなくなったんだろう?)
 目先の忙しさに捕らわれて深く考えなかったが、ココは睡魔の隙間に気になった。明確な推測が浮かばず、悩む時間を惜しむかのように眠りに攫われた。
 ふと、名前を呼ばれた気がしてココはまぶたをあける。目の前に小松がいた。
(夢?)
 あいにくと小松が夢に出てくることは・・・多々あるココは、無意識に小松を抱きしめた。ココの不幸は、寝ぼけて現実だという認識に遅れたことだ。
「コ、ココさん」小松の困った声がリアルで、ココは違和感によりようやく覚醒をはじめた。
「本物?」
「ぼくの偽者ってなんですか・・・って、起きてください」
 情けない声をあげる小松を無視して一瞬、寝ぼけていたという誘惑がココを襲った。片方の手で小松の後ろの首筋を撫でれば、「ひゃ」とおもしろい声があがる。色気のなさにココは笑いそうになる。
「本物の小松くんか」
 さすが夢のように都合よく展開しないとココは思うが、言葉通り受け止めた小松は「偽者じゃありません」と呆れていた。
「あれ、レストランは?」
 小松が何故本社にいるのかココが問えば、「終業報告です」と小松は固い表情でこたえた。
 ココは机に置いた携帯を手に取るが、充電が切れていた。
「そうだ、すっかり忘れていた」
 壁にかかった時計は深夜を回ろうとしている。
「わざわざ本社にまで来させてごめん」
 ココが謝罪するが小松は黙ったままだ。よほど怒らせたかとココは危惧したが、小松の怒りは終業報告に上司がでなかった点ではない。
「ココさんはかなり無理をしていませんか? ちゃんと寝ていますか? ご飯を食べていますか?」
 小松に心配されて、ココの気持ちは焦る。仕事ひとつ満足できない男だなんて思われたくなかった。
「大丈夫だよ、たまに凄く忙しくなるけど、それはいつものことだし」
「トリコさんも心配していました」
「トリコが?」
 小松の口からトリコの名が出てココは驚いた。トリコは他人の話を誰彼に話す性格ではないからだ。
「ぼくは大丈夫だから」とココは再度言うが、小松には逆効果だった。
「ぼくがココさんの心配をしてはいけないんですか?」
 温厚な小松がココを強く責める。
「ココさんが無理しているのを、黙って見ているしかないんですか? ひとりで抱えないでください」
 小松の方が辛く見える訴えだった。
 ココは小松が本店の料理長になったばかりの頃を思い出す。職場からは疎まれ孤立していた。すべては理解が足りなかったのが原因だ。今は良好な関係ができているが、地元を離れて知らぬ土地で働く小松に「ひとり」というのは辛かっただろう。
「ごめんね」
 小松の気持ちを思いやれない自分をココは悔やむ。結局は自分しか考えないのだと思うと気持ちが沈んだ。疲労も加わり、ココの落ち込みはいつもなら受け流せるレベルでも無視できずにダメージを負った。
「反省しているなら・・・」小松の交換条件を思わせる台詞に、ココが反応できないでいると、
「今日の仕事は終わりです。おいしいものを食べましょう!」
 握りこぶしを作って小さな料理人は叫んだ。
―おいしいものを食べれば元気になる。
 小松の十八番の台詞をココは思い出し、
(違う)
 と否定の言葉が浮かんだ。
(おいしいものを食べるから元気になるんじゃない。元気にさせたい気持ちが、元気をくれるんだ)
 小松に恋に落ちた瞬間の鼓動が甦る。わかっていたのに、はじめて味わう感覚だった。
 ココの胸が甘く満ちていく。
 好きだと、ココは衝動的に告げたくなるが、先に小松に訴えたのは腹の虫だ。
「え?」
 きゅうう、という情けない音に小松だけでなく、ココも驚く。昼食を食べ忘れていたのを思い出した。
「ご飯は食べましたか?」
 小松の声が怒り気味だ。
「・・・ごめんなさい」
 ココは謝ることで、遠回しに食べていないと白状した。
「今すぐパソコンを消して、荷物まとめてください。ご飯を食べに行きますよ」
 厨房でスタッフに指示する張りのよい声が、ココを急きたてる。ココは急いで片付けると、小松と連れ立って裏口から建物をでた。
「なにか食べたいものがありますか?」
 小松の問いは、飲食店の希望だったろうが、ココは気づかぬ振りをして「小松くんの丼が食べたい」とこたえた。
「好きですよね、ココさん、丼が」
 意外だと言わんばかりの声で小松は言った。
「わかりました。丼っていろんなバリエーションがあるから楽しいですもんね」
 途中でスーパーに寄り、向かった先はココのマンションだった。小松のアパートの方が調理しやすい環境だが、ご飯を食べた後にココを帰すのは時間の無駄だろうと思って小松はマンションを提案したのだ。
「でも炊飯器がないよ?」
「鍋でもご飯を炊くテクニックを身につけました」
 小松は自慢げだ。
「ココさんのとこで丼を作るたびに炊飯器を持っていくのは大変ですからね」
 小松のなにげない一言は、ココとの未来を思わせる台詞でもあった。
「ありがとう、小松くん」
 その夜食べた丼は、ココの胃と心に染みた。
 ココは泊まっていくよう小松に勧めた。やましい気持ちはないが、下心が多少あるのは否定しない。
 小松は急な勧めに迷いをみせたものの、ココの朝食の面倒をみるつもりで承諾した。
 小松はココに早く風呂で疲れを落として寝るよう告げる。客人より早く寝るのに抵抗を感じて渋るココに、小松は「今日のココさんに拒否権はありません」と妙に強引なことを言い、ココを納得させた。
 久しぶりに湯船に浸かり、先にベッドに横になればやはり睡魔に襲われた。それでも小松がベッドに入ってくれば、かすかに意識が戻る。
「今日はありがとう、小松くん」
 半分意識が飛び掠れた声だが、小松に届いた。
「いいえ、ひとりでがんばるココさんを見ているのは辛いですから」
「うん、ごめん」
 素直な謝罪がココの口からでる。
「嬉しかったよ」
 ココは小松を抱きしめた。
「あったかいね」
「って、パジャマ着ましょうよー」
 一糸纏わぬココに抱きしめられた小松の体温があがる。
「違う、小松くんの気持ちがあったかいの」
 寝るポジションを確認するようにココは小松を抱きしめたままもそもそと身じろぐ。
「ぼくは抱き枕じゃありませんよ?」
「知ってるよ、小松くんだろ?」
「寝ぼけてますね」
 小松の声が諦めモードだ。
「小松くんは好きな子いる?」
「はい?」
「ぼくは、いるよ」
 小松が突っ込んだ通り、ココは寝ぼけていた。寝ぼけていたから口が軽くなり、寝ぼけていたから思い出しもした。
(小松くんとの関係がどうなるか、占っていたなあ)
 自身の占いなど無駄なだけなのに。
 ココが占い全般だめになったのは、それからだった。

続く
自分の話ながらつっこみたいことと言えば「どんな夢みてるんだココさん詳しく教えろ!」ですね。

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