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WJ連載中「ト/リ/コ」の腐/女/子サイト  【Japanese version only.】

2024'09.21.Sat
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2010'11.18.Thu

2ヶ月近く続きをアップしていなくて自分でもびっくり。
自分を追い詰めるためにもとりあえずアップ。


3-1/リーマンココマ

「今日から本店の店長を務めることになりましたココです」
 新店長を見て呆然とする小松に、人の悪い青年は人の悪い笑みを返したという。

「オヤジが嘆いてたぜ、ココの無茶振りに」
 ココの執務室で仕事タイムでありながらもビールを飲むトリコは友人を冷やかした。今回のレストラングルメ本店の店長に無理矢理就任した件についてだ。
「仕事に意欲を燃やしているのに心外だな」
 ココは何食わぬ顔でこたえた。
 胡散臭いとトリコは笑う。
「ここでビール飲むのはやめろ。アルコールの匂いが残るだろ。飲むならマンサム部長のところで飲め」
 ココは手を払ってトリコを追い払う仕草をする。本店店長の座は誰もが夢見る役職だが、ココはライバルたちを策略ではなく、自信で追い払った。
『売り上げがマイナスポイントになったら、その日のうちにクビにしてくれて構わない』
 ココの発言を勝算あっての自信と受けとめた役員は、破天荒な人事ながらも認めざる得なかった。本店のマイナス実績は深刻で、代理としてヨハネスを店長にしたものの、彼の能力は店長で発揮されるものではなかった。加えて、梅田がヨハネスを呼び戻したかったのもある。
「ところで車はどうしたんだよ? 最近駐車場が空きっぱなしだな」
 地下の役員専用駐車場の話をトリコが振れば、「お休み中」とココはまたもやなにくわぬ顔でこたえるのであった。
「これから店に行くから出て行け」
 ココの冷たい対応にトリコは動じない。
「おう、ココもあんま無茶するなよ?」とハードワークなココを心配する。
「おまえが店に出る日なら食べに行くかな」
 無邪気に言うトリコに、ココはこたえた。
「トリコ出入り禁止」
 彼の食欲を知る者なら、誰もがココと同じ台詞を口にするだろう。
「ひでぇ」
 トリコは大きな体格と同じく、大きな嘆きでココを非難した。

 客の層が変わってきたと、店内を見て小松は感じた。女性客が心なしか増えている。カップルと女性グループが半々だった比率が最近は偏っていた。
 新店長の影響かと小松は考えていた。現にココがホールにでれば女性客の食事の手は止まる。
「店の味が認められている証拠だ。リピーターが多い。しかも大切なイベントのための予約も増えている」
 ココは店の数字を冷静にはじき出した。自分の顔の影響力は自覚していても、この顔を見るだけで、手軽とは言い難い店にお金を払わないだろうというのがココの意見だ。
「飲食店は打ち上げ花火じゃない。地道な歩みが結果に繋がる。ここにきてようやく認知されたね」
 ココの笑顔とともに小松をねぎらう。最近までスタッフとの交流がうまくいっていなかった小松は、なかなか自分の腕に自信を持てないでいた。味は確かだと、小松を引き抜いたココは確信しているのに、当人に自信がないのは皮肉な話だ。こまめに褒めるのは真実だからココは気にならないが、小松は気恥ずかしそうにはにかむのがもどかしかった。
「これからもがんばります」
「無理しないでね」
「ミーティング中失礼します!」
 ホールスタッフの駆け込みに小松は何事かと不安に思うが、ココはふたりきりの時間を邪魔されて心のなかで舌打ちする。
「トリコさまがご来店されました」
「塩をまいておいて」
 ココの判断に迷いはない。
「ココさん・・・じゃなかった店長、いくら社内の人間だからってひどいです。食事を楽しみたいひとを追い返すなんて」
「小松くんはトリコの食欲を知らないからそう言うんだ」
 ココは呪詛を呟くように吐き捨てた。
「失礼します、トリコさまが注文された品数だけで食料庫が尽きました」
 続いて駆け込んだスタッフの報告は予想通りのものでココは頭を抱える。
「ぼくが対応する」
 ココはため息を吐きながらホールにでた。
 早い時間のため、店内にトリコ以外の客がいなかったのが救いだ。
「来るなと言ったろ? 食材が尽きたため本日店じまいなんて不名誉な看板を出させたいのか?」
 会うなりの毒舌にさすがのトリコもたじろいだ。
「だって小松の料理が食いたいんだもん」
「百年早い」
「何故?」
 ココの零下の対応にトリコが悲鳴をあげた。ココの後をついて話を聞いていた小松は、居た堪れなくて提案する。
「仕事が終わってからでよければ、なにか作りますよ?」
「マジでか? やったー!」
 両手をあげてよろこぶトリコに、小松は訂正をする。
「ぼくのアパートでいいなら、ですが」
「場所なんて関係ねえよ。あの親子丼の味が忘れらない」
 ラッキーだと鼻歌まじりのトリコは「本日のシェフアラカルト五人前でいいや」と彼にしてはかなりの妥協をした。
「待った」
 ココがストップをかける。
「なんだよ、五人前程度ならなんとかなるだろ?」
「ぼくも小松くんのアパートにお呼ばれしたい」
 ココの不思議な発言にトリコが疑問に思うものの、小松があっさり「わかりました」とうなずき、つっこむ機会を失う。
「親睦会みたいで楽しみです」
 小松は嬉しそうだった。転勤してきたばかりの小松は、いろんなひとと深めあい、理解したいと思っている。それはいつか料理にも繋がるし、チームワークに繋がるものだ。
「トリコ、仕事が終わった小松くんに無茶な注文をつけるなよ?」
 ココはトリコに釘をさす。となりで聞いていた小松が「おおげさですねえ」と笑う。呑気に笑っていられたのは、夜に来訪した彼の食欲を目の当たりにするまでだった。

続く

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