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WJ連載中「ト/リ/コ」の腐/女/子サイト  【Japanese version only.】

2024'09.21.Sat
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2010'11.23.Tue
なんだ、自分、死亡フラグかと思う勢いでリーマンパラレルアップしてますね。
うん、早くふたりの関係を進めたい。

3-3/リーマンココマ

 レストランも軌道にのり、緩やかに右上がりの数字だ。一ヶ月ほどで起きた変化に役員たちもココを認め、店長の継続は約束された。コンサルタルトの抱えていた問題も片付き、ひさびさの丸一日完全オフに、ココは体調を崩した。
(夕方であがりの小松くんを食事に誘おうと思っていたのに!)
 仕事のタイミングがあわず、ココが店長に就いてから三日以上小松に会っていなかった。仕事の関係でメールのやりとり、就業報告等は電話で聞いている。仕事など抜きにして一緒にいたかった。具合の悪さを押してでも小松に会いたいが、悪化して職場に迷惑をかける訳にはいかない。人前に出る仕事の人間が顔色を悪くしてはいけない。美学にうるさい友人がいれば確実に説教一時間コースに立たされる。
 約束もしていないのがせめてもの救いだ。
 ココはベッドのなかで携帯を持った。メールで小松に「親子丼が食べたい」と送る。空腹ではないが小松が作るものを食べたかった。体が望むままにココは再び眠る。メールを送ったことはすぐに忘れた。
 ココが再び目を覚ましたのは夕方だった。携帯が鳴ったのを見て目が覚めたのだ。相手は小松だった。寝ぼけた頭でココは電話に出る。
『おやすみ中に申し訳ありません。今、マンションですか?』
「そうだけど、どうしたの小松くん」
『今マンションの前にいるんです。ご飯を作りにきたので開けてもらえませんか?』
「ご飯?」
『親子丼が食べたいってメールを送ってくれたじゃないですか』
 小松に言われてココは一瞬思い出せなかったものの、急いでマンションの玄関を開けた。ココが住まう階に辿りつくまでに、大急ぎで服を着て身支度をする。途中、メールの送信履歴を見て、自分が送ったメールを確認して頭を抱えた。後悔したかったが、そんな余裕もなかった。
 呼び鈴が鳴る。
 玄関には小さな炊飯器とスーパーの袋を抱えた小松が立っていた。
「いきなりすみません・・・どうかしたんですか?」
 不思議そうにココを見上げる小松だが、問われた本人は見当がつかない。
「起きたばかりのようですが」
 目やにでもついてるのかと顔に手をあてたココは、髭を剃っていないことを思い出す。
「具合でも悪いんですか?」
「惰眠を貪ってただけだよ」
「裸で寝るから風邪をひくんです」
「風邪じゃない、身体がだるいだけ。季節の変わり目には必ずなる通過儀礼にすぎない」
 寒さや暑さには強いが、曖昧な季節は調子が狂うのだ。喉も痛くないので、風邪ではないと言い切るココの言い分に小松は呆れた。
「なに訳のわからないことを言ってるんですか」
「・・・ごめんなさい」
「大人しく寝ててください、起こしてすみません」
 小松の言葉に、ココはとっさに口を開いた。
「帰るの?」
 自分でも驚くほど切羽つまった感じの声だ。
「ご飯を用意したら今日は帰ります」
 すぐには帰らないという発言にココは安堵する。
「ご飯は食べられそうですか?」
 言われて、ココは空腹な自分に気づいた。
「食欲はあるよ」
「なら安心です」
 小松が微笑む。
「いっぱい食べて元気になってください」
「小松くんが作る料理はいっぱい食べたい。おいしいものを食べれば元気もでるしね」
「ありがとうございます」
 小松は照れくさそうに笑った。一流の腕を持ちながら謙虚な青年だ。個人で店が持てるレベルだとココは思っている。
 小松が台所に向かうと、ココはシャワーを浴びて簡単に身支度をした。小松の前でだらしない恰好はしたくなかった。
(前にもあったな)
 自分がシャワーを浴びて小松がご飯を作った朝を思い出す。ようやく持てた小松との関わりに、浮かれて酒を飲ませて酔い潰したことがあった。浮かれていたと今なら思うが、親しくなるきっかけになったから問題はない。
 ダイニングに行けばテーブルには副菜が何品か並んであった。小松がいるだけで殺風景なキッチンに暖か味が生まれる。
「座っててください。もうすぐできますね」
 ココが席につくと小松はお茶をさしだした。湯気にさえ心が温まる。
(これは小松くんの人柄)
 ココは、はじめて小松と会ったときのことを思い返す。

 地方にありながら集客が良いと噂される店にココが視察に行ったのは春先だった。どんな手法で経営しているか興味を持ったのだ。たまにココは抜き打ちで視察に出かける。
 田舎にしては(失礼)立派な店構えで、値段も安くはない店は地元の敷居は高いだろうとココは思ったが、平日だというのに賑やかな雰囲気だった。
 翌日、ココは客として食事に行く。固い雰囲気になる店内の造りはどこも同じなはずなのに、暖かな印象がした。働くスタッフの良さが表れている。しかし、運ばれた料理を食べてココは、集客の良さは店内の雰囲気のよさだけが影響しているのではないとわかった。
 味は嘘をつかない。無性に心を動かされた。
「料理長」とスタッフが呼ぶ声に顔をあげれば、厨房からまだ若い青年が返事をした。
(彼が?)
 メインのメンバーは把握はしていた。料理長の小松は年が二十五歳と若く、実際に見た彼はもっと若く見えた。童顔と背の低さのせいではあるが。
 厨房の奥から見えた小松は楽しそうだ。料理を愛し、料理に愛される人物だと思った。田舎の料理人にしておくのはもったいない人材だ。
 ココは社内ネットワークを使い小松のシフトを調べ、日をあけたり時間を変えたしして何度が店に通った。通ううちに本店の低迷を思い出す。
 引き抜きたいと思った。
 しかし彼を引き抜いたらこの店の売りはなくなるのは容易に想像できる。IGOのレストランが業績不振で閉店などあってはならない。本店の有益を取るか、小松の腕で持つ店を取るか、これよりも難しい判断をしたことのあるココが悩んだ。
 公園のペンチで思い悩むココの頭上に桜の花びらが舞う。店に初来店した頃は蕾だった桜が満開である。平日の深夜のせいか、花見客もおらず静かだった。
「具合でも悪いんですか?」
 遠慮がちにかけられる声に顔をあげれば、そこにはいつも遠くから眺めていた小松がいた。
「春とはいえ夜は寒いです。風邪をひきますよ」
 労わる声にココは動揺を隠しつつも礼を言う。同時に、こんなに簡単にひとに声をかける小松に危機感を抱いたものだ。
「仕事で思い悩んでいたもので」
 見知らぬひとならココは適当にあしらったが、気づけば話していた。
「どんな悩みも、おいしいものを食べれば大概なんとかなるというのが、祖父の教えです。気持ちのリセットだと思うのですが、寒い夜にひとりで悩みを抱えるなら、おいしいものを食べて元気をつけましょう」
 呑気にも聞こえる小松の励ましは、ココの悩みを解決するものではなかったが、唐突に「欲しい」という衝動を駆り立てた。
 なにがなんでも手に入れる。本店に引き抜き、手の届く範囲に小松を置きたいと思った。それは本店のためではない。ココの渇望のためだ。名前をつけるのは後でいいから、一刻も早くという声がココを急きたてた。
「ありがとう」
 ココの礼を、小松は相談の礼だと受け止めた。それから実際にココは行動にでた。本社に働きかけ、小松の移動に一ヶ月以上かかり、ココの無茶振りの後始末に一ヶ月近くかかり本社を離れていた。同時に働きかけていた本店店長の座も獲得するため画策して、実際に小松と接触をもてたのは出会った四ヵ月過ぎた頃だ。
 長かったとココは思った。その間、小松が以前勤めていた店は客の入りが悪くなった。当然の結果だとココは思っただけで、罪悪感はなかった。ただ、承知の上で引き抜いた自分を小松がどう思うか、それだけが怖い。
「お待たせしました」
 ココの前に丼があった。ココの反応は遅れ、小松に心配させた。
「ご飯を食べたら、休んでくださいね」
「うん、ありがとう」
 ココは箸を手にとる。器から伝わる暖かさが嬉しかった。一口食べれば目も覚めるほどの美味で、久しぶりの小松の料理をココは堪能した。「おいしい」を連呼するココに、小松は彼の普段の食生活を心配した。

続く

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