考えてみると、プチとはいえ連載ものはこれがはじめてなんですよね。
料理陰陽師小松 其の三
「このぷにぷにしたのなんだ?」
「がんもどきです」
「雪みたいなだな、これ」
「ごま豆腐です」
「月みたいな色の薄っぺらいこれは?」
「生湯葉巻の煮物です。青菜、椎茸、大豆などを包んでいます」
「人間の食べ物がこんなにうまいなんてはじめて知ったぜ」
さっきまでつまらないと思った酒もすすむ。
「今までなにを食べてたんですか?」
「酒」
「お酒は飲み物ですよ」
「酒を飲めば十分なんだよ、おれは」
たまに仲間が珍しい木の実や、その年一番に実った果物をくれるが、おれは基本的に酒だけで生きていけた。
「うまいもの食わしてくれた礼に教えてやるよ。美食會の奴らはめちゃくちゃ強いぜ。おまえなんか瞬殺されるのが落ちだ」
奴らは縄張りなんて関係ない。だから逆におれたちが住む美食山に侵入しない。人間がいる方へ向かう。
おれらもおれらでこの山から出ない。
ここにはあいつがいるからだ。
「ご忠告ありがとうございます。でも今、その妖怪たちに都の人々が苦しめられています。退治しなくてはいけません」
人間は重箱を片付けふろしきで包みなおすと立ち上がる。立ってようやくおれと同じ目線になった。
「間違えてごめんなさい」
柔らかな目だった。おれを前に恐れないのはよほどのアホか、腕に自信があるのか。
どっちだっていい。
「トリコだ」
思わず自分の名前を明かした。
「おれの名前はトリコだ。覚えていてくれ、小松」
のちに仲間に自分の名前を明かしたことで大ひんしゅくを買うが、
「はい、トリコさん」
笑顔で名前を呼ばれて、すべてがどうでもいい気がしてきた。
『餌付けされるな』と毒舌家の仲間の声が聞こえそうだ。
続く