帰る家がありません!
グルメ32「トリコの正月!!」
正月三が日が終わらぬうちに自宅を食いつくしたトリコはテリーとともに食料調達にでかけるが、動物も寝正月をきめこんでいるのか捕獲ゼロで途方にくれる。
正月早々餓死の危機を感じたトリコは迷わず小松に助けを求めた。
「腹減ったー」
小松の部屋の扉があいた瞬間、トリコは新年のあいさつより先に自分の欲望を口にした。
数秒の間。
さすがにトリコも己の失礼さに気づいて再び危機感を感じるが、小松は笑った。
「トリコさんらしいあいさつですね」
そしてトリコとテリーを部屋にあげる。
「テリーの足を拭いてくださいね。それからこの毛布にテリーを座らせてください」
ペット禁止のアパートだが、テリーを追い返す発想もないのか小松は手のかかるトリコより先に彼の相棒のために動きまわる。
テリーがまだ小松の部屋に入るサイズでよかったとトリコは安堵する。
小松のもとに来た事情、すなわちスウィーツハウスを食べつくした話をすれば、小さなシェフは腹を抱えて爆笑した。
「でもトリコさんを満足させられる食材はありませんよ? ワールドキッチンも今は正月休みですし」
「量よりも今は、おまえの料理が食いたい」
「トリコさんにそう言ってもらえるのは嬉しいですね」
小松は喜びを口にするが、どうにも社交辞令とうけとっている節を感じてトリコは「本当だぞ」と念を押す。
「簡単ですがおせちを作ったんです。餅ものしを一枚買ったのでたくさんお雑煮を食べましょう」
小松がエプロンをつける。
「量が関係ないなら、今日は贅沢な感じでいってみたいと思います」
嬉しそうに小松が言う。四天王一の食いしん坊が食す量を考えながらの調理の大変さを、垣間見た気がしてトリコは申し訳なく思う。
「正月だけど実家に帰らないのか?」
「正月があけたら休みがもらえるんですよ。そしたら親に顔を見せにいきます。今年はいっぱい話すことがあるので両親に会うのが楽しみです」
「なんかおもしろいことあったのか?」
「えー? わかりませんか?」
「いいからさっさと言え!」
食い正月から寝正月の雰囲気になる。トリコはなんだか幸せな気分にでキッチンに立つ小松の後ろ姿を眺めた。
毛布のうえで寝そべるテリーが人間ふたりをみてあくびをする。
『やってられないよ』と人間の言葉を話せたらぼやいていたかもしれない。