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WJ連載中「ト/リ/コ」の腐/女/子サイト  【Japanese version only.】

2024'11.23.Sat
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2008'12.16.Tue
3人ほのぼの。

極上レシピ 前編

 グルメフォーチュン。
 美食屋ココが占い師として住む町は、名前が示す通り占いが盛んだ。占いもグルメに関した依頼が多く、町は当然この時代特有のグルメ情報に溢れている。本屋に行けばグルメ関連の雑誌は山のように並び、訪れたココは情報収集もかねて眺めていた。
 雑誌のひとつに知ったホテルの名前を見つけた。特集はホテルの朝メニュー。ホテルグルメの単語に惹かれるように、ココは雑誌を購入した。
 自宅に帰るとココは雑誌を開くが、読むのを邪魔するかのように電話が鳴る。自宅の番号を教える相手は少ない。そして、ココの占いの能力が電話の相手を教えてくれた。
『ココか? パンケーキ食わせてやるから来い』
 あいさつもなしに受話器から聞こえたのはトリコの声だ。どこか悪巧みを感じる気配に、事情はわからないがココは辞退した。
『興味ない? 小松が情熱をかけたパンケーキを手作りで食べられるから誘ったんだがな。おれひとりで味合わせてもらうか』
「行くから抜け駆けするな」
 おもしろがるトリコに、ココは腹が立つより先に叫んだ。悔しくて言い返したかったが、先に電話を切られる。待ち合わせの日時と場所を聞いていないのに気づいたのは受話器を叩きつけた後だ。
 連絡をする前にココは雑誌を読んだ。まっさきに開いたのは「ホテルグルメ」の朝メニューが載るページだ。
 一番は老若男女に人気があるパンケーキだった。記事はホテルグルメの料理長がパンケーキのレシピを考案したと書いてある。
 トリコが誘いかけてきた「パンケーキ」という符号と合ってくる。関連性が見えてきた。
「しかしトリコがパンケーキねぇ」
 似合わないとココは笑う。よほど触手が動かされたに違いない。小松に会えるのも楽しみだが、美食屋として美味なる食べ物に興味が湧く。
 記事を読んで小松とパンケーキの予備知識を得たココは、折り返し友人に電話をかけた。待ち合わせ日時を聞けば「今すぐ来い」の不可解な内容を告げられた。言われた通りうなずいたのは、トリコが抜け駆けする心配があるからだ。
 急いでココがトリコの自宅に訪れると、ひとを呼び出しておいて彼は旅支度をしていた。
「おう、早かったな、ココ。今からでるぞ」
「どこへ?」
 話の展開についていけずにココは確認をする。
「明日、小松の休みにパンケーキを食べさせてもらうじゃねえか。手ぶらじゃ申し訳ないからなにか手土産でもと思ってな。果物とか蜂蜜とか、パンケーキの素材を殺さないような食材ってなんだと思う?」
 てっきりホテルグルメで朝メニューでも食べるのかと思ったココは、トリコの発言に驚いた。食べさせてもらうというのは、イコールお金が出ないという意味だ。男ふたり(いや、トリコがいる時点でふたりではない)の食材を、小松が自腹で用意するのかと思うとココは申し訳なく思った。
「メープルシロップ、柔らかな果肉の果物。木の実。クリームチーズ。バター。生クリーム。ジャム。種類は多くあるが、一日で集められそうなものに狙いを定めよう」
「さすがココ」とトリコは上機嫌で礼を言う。
「パンケーキなんて未知のジャンルだから、なにを用意すればいいのかわからなくてよ」
「珍しいな、おまえは基本的に食材がメインになる料理が好きなのに」
 焼くか生。彼が自分で食事をするときは野生的だ。ましてパンケーキ。彼が興味を持つポイントが謎だが、小松が関わるならココも納得できる。
「そりゃあ、小松の思いがこもったレシピだからな」
 トリコがにやりと笑う。
「食べさせたいひとがいて、そのひとのためにがんばってレシピを考案したのがホテルグルメの朝メニューに採用されたんだろ?」
「なんだ、知ってたのか」
 つまらなさそうにトリコは驚く。
「読んだ雑誌にホテルグルメのパンケーキが載っててね」
 食べさせたいひと。それはおそらく恋人だろう。占わなくてもそれはわかる。パティシエならともかく、小松はお菓子にレシピを考案するほどの情熱を持っているようには見えない。
 食べてもらった感想は? と記者の平凡な一言に対して、「おいしいと言ってくれました」とこたえてあった。
 文章を読んだココにはわかった。
「知ってるんだろう、トリコ? “そのひと”は小松くんのパンケーキを食べていない」
「それも占ったのか?」
「ぼくの勘だ」
 美談として話がまとまっているから変だと思ったといえば、考えすぎだと言われそうだ。
「レシピを研究するのに夢中になってたら、フラレたんだと。あいつは根っからの料理人だからなぁ」
 感慨深くトリコは呟く。彼が他人の過去に首をつっこむのは本気で珍しかった。それだけ、小松を気にかけているのだとココは感じる。
 それにしても、とココは意識を切り替えた(でないとドツボにはまりそうだ)。
「小松くんをふるなんてもったいない」
 正直にココは言った。ひたむきで純粋な人柄を理解できないひとが本気で理解できないと思う。
「ラッキーと思えよ。理解できる奴があいつのそばにいたら、おれたちパンケーキなんてごちそうされなかったぜ?」
 もっともな指摘に、ココは言い返す言葉が見つからなかった。口をつぐむココにトリコが先を促す。歩き出した背中が言った。
「なあココ。うまい飯ってなんだと思う?」
 哲学な台詞。しかし美食屋を生業とし、美味なるものを追い求める自分たちには常についてまわる質問だ。
 こたえは見つかっているようで、いつも違い、そして謎めいている。

<続く>
 ※「抜け駆けするな」と叫ぶココが書きたかった。

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