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WJ連載中「ト/リ/コ」の腐/女/子サイト  【Japanese version only.】

2024'11.23.Sat
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2008'12.19.Fri
3人ほのぼのの続き。

パンケーキが大好きです!!

極上レシピ 後編


 一日かけて食材を探し、足りないぶんは小松の住むアパートへ行く前にワールドキッチンに寄り手に入れた。
「邪魔するぜ」
「招待ありがとう」
 両手に抱えきれないほどの食材とアルコールを持つ男ふたりは、今日のために用意されたセッティングを見て感心する。
「考えたな」
 パンケーキを焼くのはフライパンでなく、クレープを焼く専用の鉄板だ。それも2つ、リビングに鎮座している。
「フライパンサイズじゃコイン型になるので」
 自分のアイディアが褒められた小松の表情は満面の笑みが浮かんでいる。
 最高級の五ツ星ホテルレストランの料理長である小松の、料理への姿勢は真摯で誠実だ。それは部屋にも表れている。
 小さいサイズの業務用冷蔵庫、背丈ほどある食器棚には数多くの種類の皿。陳列するスパイス。種類を厳選された調理器具。台所以外のスペースには食と料理に関する本の山。たまに香草がぶらさがっている。ベランダはキッチンハーブの鉢があった。どこにいても料理を感じる住まいだ。
「料理とわたし、どっちが大切なの? って彼女に言われなかった?」
 トリコの指摘に小松は目に見えて焦った。
「ありますけど・・・」
「で、料理を選んだんだな。部屋を見ればわかるぜ、頭のなかのほとんどは料理だろ?」
「すみません」
 トリコとしては褒め言葉を言ったのだろうが、小松は肩を落とした。
「悪くない。むしろ、だからこそ道を究められる」
 ココがフォローを入れるが、「副業で成功してる奴に言われてもねえ」と、トリコがつっこみをいれる。
「茶化すな」
 ふたりのやりとりに小松が笑った。
 生地の準備もでき、焼きあがった順に皿に置かれる。パンケーキでありながら実際は鍋だ。生地を作るのは台所で、焼き作業やトッピングは鉄板のあるリビングで行う。
「いい香りだ」
 トリコは手づかみで、ココはナイフとフォークでパンケーキを口にする。バターやシロップなしで、まずは素の味を楽しんだ。
「うまい!」
「柔らかな味がする」
 このレシピがひとりの女性のために作られたのだとしたら、そのひとが味わうことがないのは皮肉だ。でももったいないとは思わない。この味を、小松を知ろうとしなかったほうが悪いと思うぐらい、気持ちのこもった味がした。
「トッピングに適当に持ってきた」
 トリコが用意してきた食材を小松にさしだす。
「なんにでも合うように生地の味は抑えてます」
「これならチーズやハムを合わせてもおいしくなりそうだ」
 ココが一言添えた。
「どこかの店でワインに合うパンケーキを出しています。カナッペ風だから分量は・・・」
「じゃあさ、これはどうだ?」
 食のプロが三人も集まれば、話題は当然「食」になる。パンケーキにどんどんアレンジが追加され、未知なるアイディアと刺激が小松をさらなる一歩へと進めさせる。
 輝いていると、ひとが目に見えぬものも見えるココだが、目を閉じても小松の輝きを感じた。料理への愛情と好奇心は貪欲で、立場こそ違えど小松も「食」を追及するひとだ。彼の料理を食べられるのは幸せだ。
 昼すぎから夜にかけて食べ続け、加えて適度なアルコールが小松を眠りの淵に立たせた。生地を焼く役目はいつの間にかココに代わっている。
「うまいなぁ」
 おいしいものを食べるトリコはご機嫌だ。酒は飲まないがココも楽しかった。
「おまえはさ、おいしいものを作りたくてレシピを考えたんだろうけど、彼女のために必要だったのはレシピじゃないと思うぜ?」
 傷口を蒸し返すトリコの質問にココは内心焦ったが、小松は酔いのせいか動揺のかけらもない。
「トリコさんはなんだと思います?」
「まずは一緒に作って一緒に食べることだろ。おれは基本的にひとりで動くけどよ、誰かとうまいもん目指して、誰かと一緒に食べた方が同じものでもおいしく感じるのは知ってるぜ? あの仕組みってなんだろうな」
 酔いにまどろむトリコの目は優しい。説教臭いようでいて、小松を思っての台詞だ。ひとりではなく、大勢の食事が楽しいのを、ココは先日のふぐ鯨の件で改めて感じた。捕獲に困難な食材を、調理に至難の業な食材を、食するときの喜び。それでも食卓に彼らがいれば、洞窟に群生していたポキポキキノコでもおいしく感じる。
「だからさ、今度誰かのためにうまいもん作りたくなったら、完成を待たずして試食させろ。それで一緒に考えたりしようぜ。その方が絶対楽しい。そうやって完成したものはひとりで作ったものより万倍はおいしいはずだ」
「そうします」
 眠い目をこすりながら小松は返事をした。
「約束だ。おれは白銀タラバのクリームコロッケが食べてみたい。バナナきゅうりのムーンレモン漬けもいいな。デビル大蛇の七香草焼きっていいと思わないか?」
「どさくさに紛れて小松くんに変な約束をとりつけるな」
 ココはトリコの頭を叩く。酔っていてもトリコは抜け目がない。
「いいですよ、ココさんもなにかリクエストがあったら言って下さい。がんばっておいしいレシピを考えます」
「小松くんが作ってくれる料理ならなんでもおいしいと思うけど・・・」
 小松からの嬉しい言葉に、ココは動揺してリクエストを思い浮かべる余裕がなかった。必死に考える間に、小松は寝てしまった。リクエストをしても聞き届けられそうにない。
(昨日約束したと言えば騙されてくれそうだが)
 ココの脳内に悪魔の誘惑がささやくが、すんでのところで思い直す。彼なら素面のときでも、頼めばリクエストにこたえてくれるとココは自制した。
「無理するなよ?」
 トリコがココの心を読み取ったかのように冷やかす。
「・・・次はなにを作りましょう・・・」
 小松が寝言をいう。眠りのなかでも料理をするのだから、ココとトリコは笑ってしまった。
(おいしいパンケーキをありがとう)
 彼が目を覚ましたら礼を言おう。そして、また三人で食事をする約束をしたい。彼らとする食事なら、料理はどれも極上のレシピだ。
 ココは小松をベッドに寝かせると、鉄板の手入れをトリコに任せて後片付けに取りかかる。目下ココの悩みは、何食わぬ顔で小松の部屋に泊るかどうかだった。


終わり
※実は付き合っていない三人。虎視眈々と狙ってますが。
 

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