2008'12.09.Tue
もしも小松が年上だったら、というお題です。
初のトリココマなので思い出深いです。
頼まれもしないのにトリ友「トリコみ中」のミズズに贈りました。
軽くえっちありなので苦手な方はご遠慮ください。
初のトリココマなので思い出深いです。
頼まれもしないのにトリ友「トリコみ中」のミズズに贈りました。
軽くえっちありなので苦手な方はご遠慮ください。
「仕方ないなぁ」
ふとした瞬間に、小松くんが言ったその言葉を思い出す。困ったと言わんばかりの彼の口調。困りながらも受け入れる度量。
凄いひとだと思った。
一流ホテルの料理長。だけどソレだけ。見た目通り気の弱い性格で、トリコが彼と行動を共にしている理由がわからなかった。
遺書を用意しながらトリコの捕獲に付き合う小松くんは奇特だ。トリコと一緒にいるのは、暴風雨のどまんなかにいるのと同じで、命がいくつあっても足りない。現に一度死相が見えた。死相の原因であるトリコは呑気なもので、本気で他人の振りをしたくなったものだ。
小松くんはトリコを本気で怒りながらも許した。許す理由がわからなかったが、今ならわかる。
「仕方ないなぁ」と、諦めではなく受け入れたのだ、トリコを。
食いしん坊ちゃんを羨ましく思った瞬間だ。
「それで、どうします?」
「うまそうだろ」
悠然と腕を組んだトリコが示した先にはシェフがいた。トリコの視線は食材ではなく、調理する小松くんに注がれている。
なんの変哲もないスイーツハウスが唐突に不思議な空間に変わった。
トリコのせいだ。
うまい食材を手に入れたから食いに来い。小松が新しいレシピを考案したと、トリコの誘い文句に裏はなかった。
「食べたいのかい?」
探るように問いかければ、
「おまえも思っているだろ?」
意地悪く返された。付き合いの長いトリコには見透かされている、ぼくの気持ちを。
「一緒に食っちまおうぜ」
「彼に対して失礼だ」
「体温あがったな。満更でもないって思ったろ?」
ひとを馬鹿にする台詞に叱りつけてやりたかったが、声がでなかった。これでは肯定しているのと同じだ。動揺と指摘された羞恥にポイズンが無意識に生成される。
「煮え切らねえなぁ。こいつを放っておれとやるか、小松?」
キッチンにいると思っていた小松くんが、いつの間にかトリコの傍にいた。
「それはおふたりに対して不誠実だからできませんって言いましたよね?」
トリコの台詞に動じることなく、小松くんは言った。
状況がまったく掴めない。
「小松に好きだからやらせろって言ったんだよ」
親切にトリコが説明してくれるが、本気で殺意が芽生えた。ぼくの知らないところで手を出していたとは!
「ぼくはトリコさんもですが、ココさんも好きです」
小松くんはトリコの横を通りすぎ、ぼくの前まで来た。
「不誠実です。ぼくはこんな自分が嫌いです。トリコさんは気にしないと言ってくれましたが・・・」
ふたりのひとを好きになる。確かに不誠実だ。こんな自分が嫌いだと言う。不誠実な自分を認めたうえでの台詞だ。常識人の小松くんにこんな告白をさせるのが、愛ゆえだとしたらミラクルだ。
ぼくは小松くんが好きだけど、自分の体質を考えればひとと関わらない方がいい。そしてトリコの気持ちも知っていて、コイツを押しのけてまで小松くんを手に入れる気概が、残念ながらぼくにはなかった。
「ぼくはふたりといたいけど、ココさんが気持ち悪いと言うなら・・・」
「そんなことココは思わねえって」と小松くんの背後からトリコが口を挟む。
小松くんは沈黙した。言葉を捜しているのではない。答えが見つかっているからこその沈黙だ。
今、小松くんは勝負をしている。並々ならぬ決意が彼の全身から漂う。
ぼくが拒めば小松くんはぼくらの前から去るだろう。小さな体に大きな決意をさせるものがぼくらにあるとしたら嬉しい。
ぼくは小松くんの手をとった。水気を感じるその手を逃さないよう握りしめる。
「好きだよ」
告白する。勢いだけど、臆病なぼくは勢いの力を借りなければなにもできない。
「ぼくも好きです」
「おれも好きだからな、小松」
トリコが小松くんの肩を抱いた。奴のなかでなにか解禁になったようだ。
「ついでにココも」とトリコは茶化す。
ぼくも小松くんを好きなおまえに好感度があがったが、これは内緒だ。
「それで、どうします?」
ぼくとトリコに挟まれた小松くんが、困ったように、それでもきっぱりと口にしたのは、「恋人同士のルール」だった。
住むところも住む世界もばらばらな三人が付き合うのだ。うまく続けるための努力は必要だという小松くんは大人だ。
ぼくもトリコもちょっと驚いたけど、関係を大切にする提案は、それだけでぼくらを堪らなくさせるよ、小松くん。
「わかりました。」
小松くんが、怒った・・・。
小松くんが提案した「ルール」のなかで、特筆すべきものは「三人でいる時しか」という条件が多いことだ。そう、ふたりでいる時はだめ。職業も住む場所も違う。会う機会はただでさえ少ないのだ。これが「三人」そろうとなるとかなり難しくなる。一ヶ月会えないのも珍しくはない。
だからぼくも小松くんに提案した。
「ふたりでいる時に触れもしないのは辛い。トリコにも了承をとるから、ふたりでいる時間も大切にしたい」
ぼくの提案はおかしくない。ぼくだって小松くんにキスしたいし、小松くんだってぼくやトリコと関係を深めるのを望んでいるはずだ。三人じゃないからといって、機会が減るのはもったいない。
長い沈黙の後、小松くんは言った。
「わかりました」
イスから立ち上がる。
「ココさんの考えがわかりました。でもぼくはうなずけません」
小松くんはぼくの前から姿を消した。
小松くんの「わかりました」が拒絶だと気づいたのは数時間後の話だ。それからはメールもない。
ぼくはトリコに相談した。家業(副業)が占いでも自分のことはわからないからアドバイスをもらうしかない。
「怒ってるよなあ」
「怒ってるだろ」
トリコは平然と返す。こいつの取り繕わないところに救われるが、こんな時は胸がえぐられてきつい。
「なんでだと思う?」
小松くんが間にいるぼくとトリコの関係は、本当ならライバルになるのだが、仲間で納まっているから不思議だ。
「小松はさ、おれとココが好きだって言ったんだ。どちらも選べないって。どちらも選べないならどちらも選ばない。ただひとりのひとになれないから、誰かのものにもならないって」
「・・・やけに小松くんに詳しいな」
トリコの饒舌ぶりに嫌な予感がする。
「おまえ、おれが先に小松に告白したってこと、忘れてるだろ?」
たくさん口説いたぜ、と悪童の如くトリコが笑った。
今になって出遅れた自分が恨めしく思う。でも先に告白していたら、ぼくはトリコのように最初は断られただろう。
「誰に対しても丁寧なあいつがさ、三人で、なんてとんでもないこと口にしたんだぜ? それなりの覚悟があったはずだ。甘い時間のために自分の覚悟をくつがえすとは思わねえ」
トリコは自信たっぷりに言った。
ぼくの提案は、小松くんの覚悟をみくびるものだったのか? だから彼は怒ったのか? ぼくとトリコを欲しいと言った彼を、苦しませるものだったのか?
「最初はさ」
落ち込んで言葉がでないぼくに、トリコが話しかけてくる。
「三人で、なんて面倒臭えと思ったぜ。だけど、三人で会えるように時間をやりくりして、会える時を待ち遠しく思って毎日過ごすのも悪くないって思うようになった」
「うん、楽しい」
そして幸せだ。
「傍から見れば非常識三人組みだろうけど、おれたちがそれでいいなら問題ないだろ」
トリコは実にあっさりしていた。難しく考えていたいのはぼくだけみたいで恥ずかしくなる。
「反省タイムが終わったら行くぞ」
「どこへ?」
「小松に会いに」
「でも今日彼は仕事だ」
「仕事するものがなくなりゃ早くあがれるだろ」
「そんな強引な」
トリコの考えは簡単だ。小松くんが勤めるレストランの食材を食い尽くすつもりだ。接客する側としてはこれほど迷惑な客はいないだろう。
だけどぼくは、トリコの案に乗った。せめてものフォローとして、小松くんにこれから食べに行くと連絡をいれる。
『わかりました』と苦笑まじりのその声は、いつか聞いた怒りや失望と同じ響きではない。ぼくが小松くんを意識した一言に似ている。諦めるのでなく受け入れる、彼の度量の広さは並ではない。
恐れ入ります。
「もちろん文句はないですよね?」
セックスの時はセーブする。でないと彼を殺しかねないからだ。
小松くんのなかで果てた後、自身を抜いてゴムを外す。先に彼のなかでイッたトリコのでぐしょぐしょなソコには無駄な安全具と指摘されそうだが、ゴムの目的は病気を予防してではない。
「ココはなんでゴムつけるんだ? 体液を小松にいれたくないって言うならキスだってしないだろ」
「でも途中からはしない」
トリコの頭をひいて唇を合わせる。口内に溜まった唾液をトリコに移せば、さすがに眉をしかめた。
「夢中になってる時は無意識だから危険だ。トリコだから痺れる程度だけど、小松くんなら確実に寝込むほどやばい」
精液なんて夢中になった証を体内に直接いれたら、小松くんは死んでしまう。ゴムを使わなければ本当に危険なセックスだ。
「余裕ですね」
ぐったりと横たわっていた小松くんがぼくを薄めで見上げた。情事の後だというのに、色っぽさより恨めしさが勝っているように見えるのは気のせいか?
「ココさんが我を見失うことってないんですか? ぼくに魅力がないせいでしょうか」
盛大なため息はわざとらしく、そしてぼくを責めている。
「誤解だ」とぼくはすぐに抗議したが小松くんは信じてくれない。頼みの綱のトリコはおもしろそうに傍観している。
「ぼくの毒で小松くんに害を与えたくないんだ。わかってほしい。決して魅力がない訳じゃないから」
「わかった上でココさんにも我を見失って欲しいと思ってます。体質を気にする余裕もないぐらい、のめりこんでください」
小松くんはぼくの肩に手をおくと、額、目元、頬、鼻先、そして口へとキスをくれた。
なにかを訴える小松くんは、ふだんの驚きやすい(?)性質とはかけ離れて落ち着いている。肝が据わっていると言えばいいのか、大人だ。成人男子にむかって言うのも変な話だけど。
トリコを「さん」づけで呼んでいたし、小柄なので自分より若いと思ったけれど・・・ただの思い込みか?
「あの、小松くん」年いくつ? なんて、キスの合間に聞く質問ではないけど、無粋だというなかれ、とても気になる。
しかし聞けなかった。
背中には毛布の感触。小松くんがぼくを押し倒す恰好だけど、実際はトリコが背後に回って肩を引いたのだ。そのまま上から押さえつけられる。
「今日はたっぷりと愛し合いましょう」
にこりと小松くんがぼくを見下ろす。
「もちろん文句はないですよね?」
こんな状況でなければ嬉しい台詞に、ぼくは冷や汗を感じた。後で小松くんの年を聞いてみよう。彼が年下なら、不甲斐ない自分を反省しよう。彼が年上なら、翻弄されても仕方がないと納得しよう。
ぼくを包むほほえみがまぶしい。
終わり
ふとした瞬間に、小松くんが言ったその言葉を思い出す。困ったと言わんばかりの彼の口調。困りながらも受け入れる度量。
凄いひとだと思った。
一流ホテルの料理長。だけどソレだけ。見た目通り気の弱い性格で、トリコが彼と行動を共にしている理由がわからなかった。
遺書を用意しながらトリコの捕獲に付き合う小松くんは奇特だ。トリコと一緒にいるのは、暴風雨のどまんなかにいるのと同じで、命がいくつあっても足りない。現に一度死相が見えた。死相の原因であるトリコは呑気なもので、本気で他人の振りをしたくなったものだ。
小松くんはトリコを本気で怒りながらも許した。許す理由がわからなかったが、今ならわかる。
「仕方ないなぁ」と、諦めではなく受け入れたのだ、トリコを。
食いしん坊ちゃんを羨ましく思った瞬間だ。
「それで、どうします?」
「うまそうだろ」
悠然と腕を組んだトリコが示した先にはシェフがいた。トリコの視線は食材ではなく、調理する小松くんに注がれている。
なんの変哲もないスイーツハウスが唐突に不思議な空間に変わった。
トリコのせいだ。
うまい食材を手に入れたから食いに来い。小松が新しいレシピを考案したと、トリコの誘い文句に裏はなかった。
「食べたいのかい?」
探るように問いかければ、
「おまえも思っているだろ?」
意地悪く返された。付き合いの長いトリコには見透かされている、ぼくの気持ちを。
「一緒に食っちまおうぜ」
「彼に対して失礼だ」
「体温あがったな。満更でもないって思ったろ?」
ひとを馬鹿にする台詞に叱りつけてやりたかったが、声がでなかった。これでは肯定しているのと同じだ。動揺と指摘された羞恥にポイズンが無意識に生成される。
「煮え切らねえなぁ。こいつを放っておれとやるか、小松?」
キッチンにいると思っていた小松くんが、いつの間にかトリコの傍にいた。
「それはおふたりに対して不誠実だからできませんって言いましたよね?」
トリコの台詞に動じることなく、小松くんは言った。
状況がまったく掴めない。
「小松に好きだからやらせろって言ったんだよ」
親切にトリコが説明してくれるが、本気で殺意が芽生えた。ぼくの知らないところで手を出していたとは!
「ぼくはトリコさんもですが、ココさんも好きです」
小松くんはトリコの横を通りすぎ、ぼくの前まで来た。
「不誠実です。ぼくはこんな自分が嫌いです。トリコさんは気にしないと言ってくれましたが・・・」
ふたりのひとを好きになる。確かに不誠実だ。こんな自分が嫌いだと言う。不誠実な自分を認めたうえでの台詞だ。常識人の小松くんにこんな告白をさせるのが、愛ゆえだとしたらミラクルだ。
ぼくは小松くんが好きだけど、自分の体質を考えればひとと関わらない方がいい。そしてトリコの気持ちも知っていて、コイツを押しのけてまで小松くんを手に入れる気概が、残念ながらぼくにはなかった。
「ぼくはふたりといたいけど、ココさんが気持ち悪いと言うなら・・・」
「そんなことココは思わねえって」と小松くんの背後からトリコが口を挟む。
小松くんは沈黙した。言葉を捜しているのではない。答えが見つかっているからこその沈黙だ。
今、小松くんは勝負をしている。並々ならぬ決意が彼の全身から漂う。
ぼくが拒めば小松くんはぼくらの前から去るだろう。小さな体に大きな決意をさせるものがぼくらにあるとしたら嬉しい。
ぼくは小松くんの手をとった。水気を感じるその手を逃さないよう握りしめる。
「好きだよ」
告白する。勢いだけど、臆病なぼくは勢いの力を借りなければなにもできない。
「ぼくも好きです」
「おれも好きだからな、小松」
トリコが小松くんの肩を抱いた。奴のなかでなにか解禁になったようだ。
「ついでにココも」とトリコは茶化す。
ぼくも小松くんを好きなおまえに好感度があがったが、これは内緒だ。
「それで、どうします?」
ぼくとトリコに挟まれた小松くんが、困ったように、それでもきっぱりと口にしたのは、「恋人同士のルール」だった。
住むところも住む世界もばらばらな三人が付き合うのだ。うまく続けるための努力は必要だという小松くんは大人だ。
ぼくもトリコもちょっと驚いたけど、関係を大切にする提案は、それだけでぼくらを堪らなくさせるよ、小松くん。
「わかりました。」
小松くんが、怒った・・・。
小松くんが提案した「ルール」のなかで、特筆すべきものは「三人でいる時しか」という条件が多いことだ。そう、ふたりでいる時はだめ。職業も住む場所も違う。会う機会はただでさえ少ないのだ。これが「三人」そろうとなるとかなり難しくなる。一ヶ月会えないのも珍しくはない。
だからぼくも小松くんに提案した。
「ふたりでいる時に触れもしないのは辛い。トリコにも了承をとるから、ふたりでいる時間も大切にしたい」
ぼくの提案はおかしくない。ぼくだって小松くんにキスしたいし、小松くんだってぼくやトリコと関係を深めるのを望んでいるはずだ。三人じゃないからといって、機会が減るのはもったいない。
長い沈黙の後、小松くんは言った。
「わかりました」
イスから立ち上がる。
「ココさんの考えがわかりました。でもぼくはうなずけません」
小松くんはぼくの前から姿を消した。
小松くんの「わかりました」が拒絶だと気づいたのは数時間後の話だ。それからはメールもない。
ぼくはトリコに相談した。家業(副業)が占いでも自分のことはわからないからアドバイスをもらうしかない。
「怒ってるよなあ」
「怒ってるだろ」
トリコは平然と返す。こいつの取り繕わないところに救われるが、こんな時は胸がえぐられてきつい。
「なんでだと思う?」
小松くんが間にいるぼくとトリコの関係は、本当ならライバルになるのだが、仲間で納まっているから不思議だ。
「小松はさ、おれとココが好きだって言ったんだ。どちらも選べないって。どちらも選べないならどちらも選ばない。ただひとりのひとになれないから、誰かのものにもならないって」
「・・・やけに小松くんに詳しいな」
トリコの饒舌ぶりに嫌な予感がする。
「おまえ、おれが先に小松に告白したってこと、忘れてるだろ?」
たくさん口説いたぜ、と悪童の如くトリコが笑った。
今になって出遅れた自分が恨めしく思う。でも先に告白していたら、ぼくはトリコのように最初は断られただろう。
「誰に対しても丁寧なあいつがさ、三人で、なんてとんでもないこと口にしたんだぜ? それなりの覚悟があったはずだ。甘い時間のために自分の覚悟をくつがえすとは思わねえ」
トリコは自信たっぷりに言った。
ぼくの提案は、小松くんの覚悟をみくびるものだったのか? だから彼は怒ったのか? ぼくとトリコを欲しいと言った彼を、苦しませるものだったのか?
「最初はさ」
落ち込んで言葉がでないぼくに、トリコが話しかけてくる。
「三人で、なんて面倒臭えと思ったぜ。だけど、三人で会えるように時間をやりくりして、会える時を待ち遠しく思って毎日過ごすのも悪くないって思うようになった」
「うん、楽しい」
そして幸せだ。
「傍から見れば非常識三人組みだろうけど、おれたちがそれでいいなら問題ないだろ」
トリコは実にあっさりしていた。難しく考えていたいのはぼくだけみたいで恥ずかしくなる。
「反省タイムが終わったら行くぞ」
「どこへ?」
「小松に会いに」
「でも今日彼は仕事だ」
「仕事するものがなくなりゃ早くあがれるだろ」
「そんな強引な」
トリコの考えは簡単だ。小松くんが勤めるレストランの食材を食い尽くすつもりだ。接客する側としてはこれほど迷惑な客はいないだろう。
だけどぼくは、トリコの案に乗った。せめてものフォローとして、小松くんにこれから食べに行くと連絡をいれる。
『わかりました』と苦笑まじりのその声は、いつか聞いた怒りや失望と同じ響きではない。ぼくが小松くんを意識した一言に似ている。諦めるのでなく受け入れる、彼の度量の広さは並ではない。
恐れ入ります。
「もちろん文句はないですよね?」
セックスの時はセーブする。でないと彼を殺しかねないからだ。
小松くんのなかで果てた後、自身を抜いてゴムを外す。先に彼のなかでイッたトリコのでぐしょぐしょなソコには無駄な安全具と指摘されそうだが、ゴムの目的は病気を予防してではない。
「ココはなんでゴムつけるんだ? 体液を小松にいれたくないって言うならキスだってしないだろ」
「でも途中からはしない」
トリコの頭をひいて唇を合わせる。口内に溜まった唾液をトリコに移せば、さすがに眉をしかめた。
「夢中になってる時は無意識だから危険だ。トリコだから痺れる程度だけど、小松くんなら確実に寝込むほどやばい」
精液なんて夢中になった証を体内に直接いれたら、小松くんは死んでしまう。ゴムを使わなければ本当に危険なセックスだ。
「余裕ですね」
ぐったりと横たわっていた小松くんがぼくを薄めで見上げた。情事の後だというのに、色っぽさより恨めしさが勝っているように見えるのは気のせいか?
「ココさんが我を見失うことってないんですか? ぼくに魅力がないせいでしょうか」
盛大なため息はわざとらしく、そしてぼくを責めている。
「誤解だ」とぼくはすぐに抗議したが小松くんは信じてくれない。頼みの綱のトリコはおもしろそうに傍観している。
「ぼくの毒で小松くんに害を与えたくないんだ。わかってほしい。決して魅力がない訳じゃないから」
「わかった上でココさんにも我を見失って欲しいと思ってます。体質を気にする余裕もないぐらい、のめりこんでください」
小松くんはぼくの肩に手をおくと、額、目元、頬、鼻先、そして口へとキスをくれた。
なにかを訴える小松くんは、ふだんの驚きやすい(?)性質とはかけ離れて落ち着いている。肝が据わっていると言えばいいのか、大人だ。成人男子にむかって言うのも変な話だけど。
トリコを「さん」づけで呼んでいたし、小柄なので自分より若いと思ったけれど・・・ただの思い込みか?
「あの、小松くん」年いくつ? なんて、キスの合間に聞く質問ではないけど、無粋だというなかれ、とても気になる。
しかし聞けなかった。
背中には毛布の感触。小松くんがぼくを押し倒す恰好だけど、実際はトリコが背後に回って肩を引いたのだ。そのまま上から押さえつけられる。
「今日はたっぷりと愛し合いましょう」
にこりと小松くんがぼくを見下ろす。
「もちろん文句はないですよね?」
こんな状況でなければ嬉しい台詞に、ぼくは冷や汗を感じた。後で小松くんの年を聞いてみよう。彼が年下なら、不甲斐ない自分を反省しよう。彼が年上なら、翻弄されても仕方がないと納得しよう。
ぼくを包むほほえみがまぶしい。
終わり
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