確実にトリコBDには終わりません・・・。
4/時を駆ける小松
何度も夢のなかでトリコさんと話しているうちに、疑問が膨らんでいった。ぼくはトリコさんの記憶を見ていると思っていたけど、記憶ならトリコさんがいない映像が見えるはずがない。
ぼくが見ている夢は一体なんだ?
「元気ねえじゃねえか」
どうした? とトリコさんが話しかけてきた。
トリコさんの「庭」時代の夢について考えていますとは言い辛かった。トリコさんが「庭」と呼ばれる場所でどんなふうに過ごしてきたのかわからない。トリコさんが話そうとしないことを聞いていいのかどか悩むところだ。
それに、本当に夢ならぼくの考えすぎということになる。
「夢見が変で」としかこたえようがない。
「昨日はそんなに激しかったか?」
見当違いな心配をするトリコさんに怒りたくなる。
「トリコさんはいつもぐっすり寝ていますよね」
「寝られるときは寝ておかねえと」
「前に夢は見ないって言ってましたけど、今まで一度も見たことがないって訳じゃあありませんよね?」
「いや、本当に見た記憶がない」
トリコさんの発言に驚いた。
「夢は見ないが、おまえと眠っている時は気持ちがいい」
そして更に驚きの発言をしてくれた。反応に困るぼくを見てタチの悪い笑みを浮かべるトリコさんは本当に意地悪だ。
「今日は昼から仕事だろ? 途中まで一緒に行こうぜ」
トリコさんの提案に「イエス」とこたえないぼくではない。
「どこかに行かれるんですか?」
「セツ婆から梅干もらう代わりにフルーツ梅を採って来いって話になってな」
「節乃さんの梅干ですか」
トリコさんはお肉以外に興味がなさそうだから梅干とは意外だ。
「うまいぞ、おまえも気に入るって」
美食人間国宝の節乃さんが作るものを気に入らないひとがいるとは思えない。
唐突に、ぼくのためかな? と思った。
「三日後には戻ってくるから、時間があるなら来いよ」
「はい!」とこたえたのが三日前。梅干でなにを作ろうかと考えているうちにあっという間に時間は過ぎた。
スイーツハウスに行けばトリコさんは帰ってなかった。今さら家主がいないからといって帰る関係ではないけど、独りは居心地が悪く、トリコさんがいつ帰ってきても調理できるよう仕込みを終えたら、ぼくは風呂を借りて寝ることにした。風呂場には相変わらず食器用洗剤がある。ボトルを手にとり、残りの量を重さで確かめた。まだある。・・・そんなにいいのかな?
少しだけ泡立てて自分の髪に使ってみるが、やはり変な感触だった。慣れない香り。トリコさんの匂いが染み付いた寝具。すぐに眠りに落ちたぼくは、過去の夢を見て驚いた。
トリコさんをきっかけに見ているんじゃないのか?
しかも、いつもトリコさんが側にいるのに、今回は違う。
『またトリコとゼブラは脱走かい。行儀作法のときは一度も姿を見せんのう』
『すみません、セツ婆さま』
『ココが謝るのっておかしくね?』
『ふたりを止められなかったのはぼくの責任だし』
『礼儀とはなんたるか、あたしゃの教え方が悪いようじゃの。後でたっぷりふたりには教えておこうぞ』
たっぷり、というくだりでココさんとサニーさんの顔色が変わる。たっぷりと教えこまれたトリコさんは、だから節乃さんの所に行く時は正装だったんだ。
『ところでサニー』ココさんの口調が変わる。
『あれが視えるか?』
ココさんの視線がぼくに向けられた。サニーさんと節乃さんがぼくを見る。が、彼らの目には映っていないようだ。
『ココはなにか視えるのか?』
『はきりとは視えないけど、ぼくらより小さい影がそこにある』
ココさんの言葉にぼくは震えが走る。
これは夢なんだろ? トリコさんの記憶なんだろ? 何故トリコさんがいない場面が見える? 夢の傍観者であるぼくにココさんが気づく。
嘘?!
びっくりして飛び起きた。
いつもは隣にいるはずのトリコさんがいない。
その夜、ぼくはベッドで眠るのが怖くて今のソファでトリコさんの帰りを待った。
続く