昨日の続きです。あまりに長く続くようならカテゴリを作ろうかしら。
2/時を駆ける小松
自分が見た夢の記憶がおぼろげになった頃、再びトリコさんのスイーツハウスにお泊りすることになった。晩ご飯を作り、ご飯を食べる前に汗を流すために風呂を借りる。泊まるつもりだったので着替えは持っているけど、シャンプーなどは忘れたためトリコさんのを借りようとした。風呂場には体を洗うスポンジと石鹸、そしてシャンプーボトルしかない。リンスインシャンプーかな?
手にとって泡立てる。匂いを嗅いでみるが、シャンプーとはなにかが違う。
・・・まさかこれは?
「トリコさん!」
ぼくは風呂場から飛び出して食事中のトリコさんに詰め寄った。
「ちゃんと体拭かないと風邪ひくぞ?」
「落ち着いて着替えてられますか、風呂場にあった洗剤はもしかして食器用洗剤じゃありませんか?」
「うん」
トリコさんの「うん」はかわいくて実はひそかに好きだけど、これはときめいていられない!
「わかっていて食器用洗剤を使っていたんですか? なんで?」
「大量にもらったし、それに食器用洗剤って野菜とかも洗えるんだろ? なら髪を洗っても問題ないだろ」
なら、の意味が本気でぼくはわからなかった。
「それにシャンプーって臭いから嫌なんだよ。まだ食器用洗剤の方がいい」
「無香料のシャンプーだってあります」
「まあ、そのうちな」と、トリコさんは食事を再開した。これは聞いていないな。
その夜は散々だった・・・。
トリコさんの髪の匂いに気をとられて久しぶりの逢瀬に集中できず、トリコさんが拗ねた。もちろん最後までイタしたけれど。
食器用洗剤で洗っていて、今までよく髪が痛まなかったものだと感心する。寝入るトリコさんの髪を撫でれば、ごわごわとした感触が返ってきた。ぼくもたまに髪をお湯で流して終わらせるけれど、トリコさんの青い髪はぼくと違って見栄えがいいのだから手入れをしてほしい。せめて一般レベルくらいには。ライオンのたてがみみたいでかっこいいのに。
今度、トリコさんように無香料のシャンプーを探そう。
トリコさんの髪を撫でながら、ぼくはいつの間にか眠りに落ちた。
『ぼくの実験が止まっているのは、トリコの勝利の報酬じゃなくて誰もぼくに手を出せないからだ。だからトリコは闘わなくていいよ』
『ぐたぐた言ってないでとりあえず飯を食えよ。何日食べてない?』
トリコさんの苛立たしげな声に意識がそっちに向けられる。今よりずいぶんと幼いトリコさんとココさんがいた。ココさんはガラスの内側にいる。
『ぼくの毒気にあたって食べ物はみんな腐敗する。ぼくが食べても死なないとは思うけどね、見た目的にどうも食欲が沸かない』
ふざけた口調でココさんは言った。トリコさんがガラスを叩けば重い音が響いた。
『壊すなよ? それよりサニーの様子は? ゼブラは・・・マイペースな奴だから心配してないけど』
『自分の心配してろ』
トリコさんの声が苦しそうだ。いや、実際に苦しんでいる。
ぼくの夢なら、ぼくが助けたっていいのに、なにひとつ思い通りにならない。なんでぼくはこんな哀しい夢を見る?
「トリコさん」
思わず呼べば、夢のなかのトリコさんが振り返った?
『誰だ、おまえ?』
「ひどいです、トリコさん!」
叫べば「なにが?」と耳元で聞こえた。
「ぼくに向かって誰だなんて・・・って、あれ?」
「なに寝ぼけてるんだ?」
珍しいとトリコさんが笑う。
夢? どっちが?
「あれ?」
おかしな奴だとトリコさんは呆れた。おかしいのは夢だ。あれは現実にあったことなのか? 知りたいならトリコさんに聞けば一番だ。実際にあったことかと問えばいい。だけど、あんな苦しそうな記憶を思い出させるのはいやだった。
だけど知ってどうする?
過去は変えられない。
続く