終りそうで終らない。
料理陰陽師小松 其の四十七
見知った気配に顔をあげた。
「やはりここにいたか、小松」
蔑む声だけど、自分の行動を恥じていないぼくに効果はない。
ぼくは敷布に正座したまま、彼ら三人を見上げた。
「ここに住む妖怪を退治するのですか?」
「そうだ。牢を抜け出したおまえがここにいるのは丁度いい。おまえは見つけ次第連れ戻せと上からの命令だ」
「その話は置いておいて、この山に手をださないでいただけますか? この山の妖怪は悪事はしていません」
「黙れ裏切り者」
話に聞く耳を持つ気はないと返事が語った。
仕方ない。
ぼくは火鉢で熱くなった鉄瓶を確かめた。
茶器をみっつ用意する。
蜂蜜の入った壷を並べる。
反対側の火鉢にかけてある鍋の蓋を開ける。
小豆の蒸した匂いが漂う。
お椀とへらを並べた。
膳がないので大きな葉っぱの上にお茶と小豆を盛ったお椀とさじを置いた。
小豆には甘苦いはちみつをくるりとかける。
全身全霊をかけて用意した。
「どうぞお召し上がりを」
ぼくの準備が終了した証でもある言葉を口にすれば、彼らは膝をついてお茶と煮豆を口にした。
「うまい」と、術の成功の証でもある賞賛が彼らの口から零れる。
ぼくの技は、基本的に「魔」を祓う。「魔」といっても曖昧だ。ぼくは、荒ぶる気だと解釈して、妖怪ではなく人間にぼくの術を発動した。
成功するかどうかは賭けだったけど、どうやらうまくいったみたいだ。
腹が満たされた彼らに敵意はない。
感情が昂ぶってないだけでも話は進みやすいと思う。
むやみやたらに攻撃しないよう、気を静めるのを優先したけど、
この後どうしよう?
彼らを帰しただけでは根本の解決にはならない。
続く