連作です。
恋に気づいてないトリコさんのもどかしさを表現できたらいいと思っているのですが。
◇ ◇ ◇
知らない携帯番号から電話がかかってきた。仕事が終わったのを狙ってきたかのような着信に不気味さを感じたものの電話にでる。相手はトリコさんから聞いたことのある店のマスターからだった。
難しい言語を話すひとだから理解するのに苦労したけど、トリコさんを引き取りに来いという内容だった。
トリコさんが酒に酔って店に迷惑をかけるなんて珍しい。
店に駆けつけるものの、暴れているトリコさんならぼくの手に負えないし、もし寝ていたらぼくの力ではどうにもならない。どちらなのか、ホラー映画を観に行くときのようにどきどきしながら店に入った。
トリコさんは普通にカウンタのツールに腰掛けている。見た限り普通だ。
ぼくを見つけてグラスを持つ手を掲げる。ラフな恰好なのに絵になるひとだ。
「マスターがいたずらしてすまねえな」
謝るトリコさんから酔っ払いの匂いは感じない。
「一杯やるか?」と誘われたのでビールを注文した。ここでもマスターの言語は理解不能で、ジョッキがでるまで大層時間を費やした気がする。
「仕事お疲れさん」とグラスとジョッキを鳴らして飲む。トリコさんと話をしていたけど、ふいに黙りこんで、一言こぼした。
「どうもすっきりしない」
トリコさんが病気にかかったのかと思い青ざめる。
「病院に!」
酒を呑んでいる場合ではないといえば、そうじゃない、と返された。
「多分、おまえが絡んでいる」
言いにくそうに、言葉少な目のトリコさんの告白に、ぼくは「やはり」と思った。
「すみません、素人がハントについていくなんて足手まといで迷惑ですよね」
空腹にアルコールを流し込んだぼくは、いささか(?)酔っていた。「そうじゃない」と否定するトリコさんの声が脳に届くまでかなりの時間が必要だった。
この胸ん中モヤモヤしてるの、お前が関係してるっぽい
word by 確かに恋だった「恋に気づかない彼のセリフ」