連作のラストです。
スローフードならぬスローラブなふたりということで!
◇ ◇ ◇
トリコさんから邪魔扱いされたと思ったぼくは、勢いに任せて一気にビールを飲み干した。理解不能な言語をもつマスターが、なにも言わずに新しいジョッキをぼくの前に置くのだからまた飲む。横でトリコさんが慌てふためいていたけど、それさえも気にならないほどぼくは「おまえのせいですっきりしない」とトリコさんに言われたのがショックだった。
あげくに酔って吐いてトリコさんがぼくを背負って店をでた。
「起きてるか?」
「寝たふりしてます」
こたえるのさえも疲れる。ああ、早く蒲団にもぐりこんでしまいたい。たっぷり寝て現実逃避したい。
「言葉って難しいなぁ」
「なにがです?」
どんな言葉が難しいんです。
「思いつきで言えば傷つけるときもあるってこと」
「誰を傷つけたんです?」
「おまえの話だ」
「ハントの同行が迷惑なのは・・・」
「一緒にいられて嬉しいぜ。迷惑なんて思ったことは一度もねえ。会わないと調子でねえし、おまえの笑い顔を見られたらそれだけで嬉しくなるし、離したくないって思う。ずっとおまえのことばかり考えて胸のなかがもやもやするんだ」
淡々と話す声に、なにか重大なこたえが隠れているように思えて、酔いが徐々に醒めてくる。
「だから好きって言ってもいいか?」
確認をとる前に言うトリコさんがおかしくて、ぼくは笑いたくなった。よくわかってないみたいだトリコさんは。自分の感情、感じたものををもてあましている。そんななかみつけた答えがぼくへの好意なのだから信じられない。信じられないと思うくらいに、ぼくは嬉しく思っている。
「はい、聞きたいです」
ぼくがトリコさんの背中で眠る前に言ってください。
自分でもよくわかんねーけど、好きなんだと思う
word by 確かに恋だった「恋に気づかない彼のセリフ」