料理陰陽師小松 其の六十一
梟の鳴く声に、そろそろ帰ろうと小松が言った。
柔らかな肢体を貪って、腕のなかに閉じ込めて、ずっと体温を感じていたい。
「ココさんとサニーさんが心配してます」
どうやらココは床に伏せっているらしい。
着物を身につけようと離れた小松の足元が揺れる。妖怪の精を人間である小松の体内にだすのが怖くて、達するときは外に出したが、この点はおいおい考えていけばいいと思った。
時間はある。
「帰るか」
小松を腕に抱えて立てば、不安定さに頭にしがみつかれた。
「しっかり掴まってろよ?」
顔を覗きこめば、不満そうな、それでいて照れた表情があった。
はい、とうなづく仕草さえいとしい。嬉しさが移ったのか、小松も微笑み、おれの角に口付けをした。
「くすぐってぇ」
「ここが弱いんですか?」
「へんな言い方するな」
ココの住処に戻るまで、幸せな時間が続いた。正直、ココに会うのは気が重い。
「小松くん」「松」
近くまで戻れば、おれらの気配を感じたふたりが現れた。
おれと小松を見るふたりの目が驚いている。
「大丈夫なの、か?」
おれの食の衝動を、サニーはさして言う。
そう言えば、飢えた衝動はない。
ココはふらつく足取りで、おれたち・・・というか、小松に近寄り、両手でぺたぺたと顔に触れた。
「ココさん?」
「消えてる・・・」
呆然とココが呟いた。
「小松くんの死相が消えてる。なんで突然。なにがあったの小松くん?」
「ナニがあったんだよ」
含みを持たせてココに言えば、小松の顔は肯定するように赤くなり、サニーは美しくない言い回しだと呆れ、ココは目まいをおこした。
「ぼくの小松くんが!」
「おまえのじゃねえ、お、れ、の!!」
おれとココの間で揺れる小松を、サニーが引き抜く。
「男の嫉妬は美しくないし。松、トリコと喧嘩したらおれんとこ来ればいいし」
「トリコと縁を切ったら小松くんはぼくのとこに戻ってくるから邪魔をするな、サニー」
「おれと喧嘩とか縁切りなんてマジありえないからな!」
おれたちの不毛にして必死な争いは、小松の「お腹が減ったからごはんにしましょう」という一言で終わった。
小松の料理は久しぶりだと思い出す。
「楽しみだ」
嬉しくて大きな声で返事をすれば、小松も嬉しそうに笑った。
小松が笑う。
おれは小松の笑顔を守れたか?
続く