矛盾とパラレルとあほな展開を笑って許せる方だけご覧いただけると安心します。
料理陰陽師小松 其の五十九
欲求だけが先走っていたのだと思う。
小松をほぐそうと躍起になっていたが、ふと、おれの下で震える小さな体の固さに気づいた。
強張った体は緊張の証だ。
目に涙まで溜めて、何故小松が恐怖を殺してまで耐えているのか不思議だ。
「怖くないのか?」
手を止めて聞けば、小松はか細い声で「怖くないです」とこたえた。
「トリコさんが他のひとを食べる方がいやです」
小松の泣き腫らした目元を舐めれば、肩が揺れた。
「仲間を庇うか?」
それも仕方ないと思ったが、小松は否定した。
「トリコさんが他のひとに意識を奪われるのがいやなんです。ぼくならあげられます。命も、肉体も、トリコさんに捧げたいんです」
だから、と小松は続ける。
「ぼくを食べてください」
心臓を砕く言葉だった。熱く、強く、おれの心を揺さぶる。食の衝動なんて比べようもないほどの衝撃だ。
欲しいと思った。命や肉体だけでなく、小松の心も。
好きか? とココに問われたことがある。あのときは自分の衝動に迷い、自分でもなにを求めているのかわからなかった。ただ怯えていただけだ。小松を失う可能性に。
そんな未来に怯えて小松と生きる未来を投げ捨てるのはもったいない。
「好きだ」
好意を告げる言葉なんて口にしたことがない。だから正しく使えているかどうかもわからないけど、おれは言った。
気持ちを届けたくて、小松の頬を両手で包んでおれを見させた。状況を理解していない大きな目が揺れている。
瞬きを繰り返す瞳に映るのがおれの姿なのが嬉しい。
「おまえを喰うなんて真似はしたくない。もっと一緒にいたい。おまえの全部をおれにくれるって言うなら、ずっとおれの側にいろ」
「ぼ、ぼくだってトリコさんと一緒にいたいですけど、でもひとを食べないと苦しみが続くだけですよね? だったらぼくを・・・」
よほど、おれに他の人間を食わせたくないらしい。犠牲的精神ではない。これは、嫉妬だ。想像するだけで下肢に血が集まる。
「今は食の衝動よりも」と小松の手を掴んだおれは、自分のものを触れさせた。
「性欲の方が強いぜ」
小松の顔が赤く染まる。夕日よりも赤い。
食ってしましたい。これは鬼の本能ではなく、雄の本能だ。手にいれたいと吼えている。
「覚悟はいいか、小松?」
小松の手を離し、半ば脅すような声音で問いただす。掠れた声は興奮の証。
続く