矛盾とパラレルとあほな展開を笑って許せる方だけご覧いただけると安心します。
ようやくです。ここら辺を書くのを楽しみでここまできました。
料理陰陽師小松 其の五十六
「穢れろ。その身を泥に堕とせばいい」
呪詛にぼくは震えた。恨みや憎しみ以上の負の感情だ。
袴に手がかかり、怖くてぼくはろくな抵抗もできなかった。
ふいに空気が重くなる。
心臓が鷲掴みにされそうな恐怖だ。彼とは違う、別のひとが発した気配だ。
どこにいるかわからない、だけど、居る、近くに、トリコさんが。
「ひっぃ」
ぼくの上に乗っていた彼が飛びのいた。
怒りで赤かった顔が今は青ざめている。
ぼくは彼の視線を辿った。
鬼がいる。でもトリコさんだ。
恐怖に耐えられなくなったのか、彼はもつれた足で走った。
トリコさんは追うように足を踏み出す。ゆっくりと見えて、一歩が十歩にも変わるほどだ。ぼくが瞬きをする間に追い詰めるだろう。
まっすぐにトリコさんは、逃げる彼を見つめる。尋常ではない目だ。前に見た、お師さまと戦っているときのトリコさんに思えた。
「待ってください、トリコさん」
呼んでも振り向かない。ぼくの声が届かないのか?
「待って」
このまま傍観していれば、彼はトリコさんに殺されるだろう。
ひとを殺めてはだめだ。人間につけいる理由を与えてしまう。でも、ぼくがトリコさんを止めたかったのはそんな理由じゃない。
「やめてください、トリコさん」
ぼくは乱れた衣を掴んでトリコさんのもとに走る。そしてぼくの胴ほどもありそうな腕を掴んだ。
「ぼくのために怒ってくれるのなら、もういいです、やめてください」
「離せ」
トリコさんの声が苦しげだ。食の衝動が彼を苦しめている。
「手を離せば、あのひとを喰らうのですか?」
「あいつはおまえに乱暴しようとしたんだぜ? 見逃す価値はない。どうせ散る命ならおれが喰らってもいいだろ。人間を食えばおれは苦しくなくなる。もう嫌なんだ、おまえに会うのにびくびくしながら飢えるのは!」
「トリコさんのばかちん!」
続く
ここで?!