なんとか当日に間に合いましたバレンタイン。
そして今日で2月も半分が過ぎました・・・。正月にたてた予定では3冊目が今日終っている予定でした。
チョコを13個
「明日から2月だな」
一月最後の日曜日にやってきたトリコさんが言った。イベントにはなにかしら盛り上がりたがるトリコさんがこの時期に「2月」と口にすれば、言いたいことはひとつだ。
今年のバレンタインは日曜日。丁度二週間後にある。
「14日は日曜日なので、ディナーまでは忙しいんですよね」
とりあえずとぼけてみる。それでも去年のバレンタインが土曜日で自然と日曜日も潰れたことも考えればマシな状況だ。
「無理しないでね、小松くん」
ココさんが箱をぼくに差し出す。
「なんですか?」
「チョコだよ」
もらうにしても随分と早いバレンタインだ。
「13個入っているから明日から毎日一個ずつ食べてね。なくなった次の日がバレンタインだから、14個めはきみがちょうだい」
箱を開けると13種類の小粒のチョコがあった。見た目も香りも食欲をそそる。トリコさんが「うまそう」と箱を覗きこんだ。
「ぼくが小松くんのために選んだチョコだからな、つまみ食いするなよ」
ココさんがトリコさんに念を押す。普段ならトリコさんが食べ物のことで我慢を強いられたら必ず文句を言い返すのに、今回はあっさりうなずいた。
「このチョコはさすがに横取りしないぜ? 13個食べることに意味があるんだからな」
「え?」
意味ありげなトリコさんの台詞に嫌な予感がした。
「あの・・・」
ぼくが質問したがっているのはふたりともわかっているのに、何事もないように席を立った。
「選りすぐりのチョコだからちゃんと味わってね」
ココさんのキスがぼくの発言を阻む。
「14日の夜は楽しみにしてるぜ」
わがままもなくトリコさんはぼくの唇に触れる。
「じゃあ2週間後」とふたりは声を揃えて言うと帰った。わかってはいるけど、2週間は会えないと宣言されたようでちょっと淋しくなる。とはいえ、いつも忙しくて一ヶ月が矢の如く過ぎるなんてしょっちゅうある。
ココさんがくれたチョコは、毎日必要以上にふたりを思い出させるアイテムになった。
チョコは一日一個ずつ消える。あまりのおいしさに一気に食べてしまいたくなる。でも大切に、大切にひとつずつ食べる。箱の中身が少なくなるのが切なかったけど、空になった翌日には会えると思えば楽しみでならない。
カウントダウンチョコなんて洒落ている。
最後の一個を口にほおった。明日、アパートに帰ればふたりがいる。食事はいらないとココさんは言ったけど(トリコさんは不満そうだった)、簡単なごはんは用意したい。多分、夜は凄いことになる。エネルギーを補給しないと・・・って、ぼくはなにを考えてるんだ!
明日は早い。早く寝て明日に備えよう。大切なひとと過ごすバレンタインにレストラングルメを選んでくれたひとたちのためにもおいしい食事を味わってほしい。
ベッドに入れば睡魔はすぐに訪れ、目覚めもすっきりとしたけど・・・。
「マジっすか?」
下着のなかの濡れた感触に脱力する。いやらしい夢をみて下着を汚すなんて十代以来だ。夢精した恥ずかしさよりも見た内容に頭を抱えたくなる。
トリコさんとココさんとのセックスだ。今さらセックス如きで恥ずかしがるつもりはないが、夢ながら濃くて起きぬけの記憶にしては強烈で刺激的だ。
「溜まってるのかなぁ」
しかし考える時間などなく、時計を見て慌ててシャワーを浴びて気持ちを切り替える。汚れた下着を洗う時間はないので、明日に託して洗濯機に放り込みぼくは仕事に出た。
イベント日はいつもよりハードで、多少ホールで恋人同士の修羅場があったものの無事に一日が終わった。自分の部屋の明かりを見て気持ちも軽くなる。ふたりに合鍵を渡している。遅い時間になって申し訳ないけど、イベントの日に大切なひとたちと同じ時間を過ごせるのは嬉しい。
ドアを開ければ「おかえり」とふたりが出迎えてくれた。「ただいま」と言うのは慣れなくて気恥ずかしい。夜食にとココさんが用意してくれたポトフは、素朴な材料が基本のはずなのにやたらと豪華な食材がはいっていてびびった。
ぼくの野菜不足を心配するココさんの料理はいつも野菜がふんだんにはいっている。
会えなかった二週間の隙間を埋めるように会話をする。ぼくは食事をしながら、トリコさんは近くの店を閉店に追いやるほど買い占めたケータリングを食べながら、ココさんはそんなぼくらの世話をやきながら。
食事を終えて思い出したように時計を見てば12時を回る前だった。
ぼくは慌てて戸棚からふたつの箱を取り出した。
「ハッピーバレンタイン!」と言えばいいのだろうか?
誕生日もクリスマスもともに過ごして贈り物もはじめてじゃないけど照れくさい。
ふたりが嬉しそうに受け取ってくれるから照れくさくてもぼくも嬉しくなる。
トリコさんにはラムレーズンと胡桃を使ったチョコブラウニー。ココさんには抹茶ケーキをチョコレートでコーティングしたものだ。
「ありがとう」とココさんが礼を言う間にトリコさんはスティックの形に切ったケーキを三本まとめて口にいれた。
「うまいけどココにはラム酒がきついかもな」とトリコさんはココさんのために自分のブラウニーを分けた。
「ぼくのはコーヒーが欲しくなるな。うん、風味がいい」とココさんも自分のケーキをトリコさんのために切り分けた。ぼくはふたりの、こーゆうところが好きだ。
「イベント前で忙しいのにありがとう、小松くん」
「まあ、それほどでも」
忙しかったのは事実だけど、ふたりのためにケーキを焼く時間もないほどではないと言いたかった。
「洗濯物も溜まっていたみたいだし」
「乾燥機つきなのでつい、後でもいいかなーって思っちゃうんですよね」
「でも汚れ物は早めに洗った方がいいよ?」
「わかってはいるんですけど・・・」
こたえながら嫌な嫌な予感に冷や汗が流れる。
「小松くんのパンツは洗っておいたから」
ココさんの爆弾発言に続いてトリコさんが「しかも手洗いだぜ」と教えてくれた。いっそ教えてくれなくていいですから!
言葉も出ずに固まるぼくにトリコさんはにやりと笑った。
「だってヤラシー匂いがぷんぷんするんだぜ? 匂いの元を確かめて確認したくなるだろ?」
時間が戻せるなら戻したい。こんな事態になるなら、ぼくは遅刻してでもパンツを洗った。
「どんなえっちな夢を見たんだ?」
さっきまで食べるのに夢中だったトリコさんの、ぼくを問い詰める眼差しに色が灯る。
「・・・別に、現実と変わらない内容でしたよ」
ぼくにとってえっちといえばこのふたりしかいない。夢は現実と同じく三人で抱き合っていた。ぼくの想像を超える演出は誓って無い。
「夢に見るほど望んでくれるとは嬉しいね」
ココさんが夜を思わせる低音でぼくにささやきかける。彼らに見つめられると、いつも身の置き所がない気にさせられるけど、今日は一段と心が落ち着かない。スイッチの入りの早さに火種が燻っている自分を知る。
「きみはどんなお菓子よりも甘い」
ココさんの台詞に、二週間前もらった13個のチョコを思い出す。
「・・・もしかしてチョコになにかいれました?」
最後の一個を食べた晩にえっちな夢を見るなんてタイミングがよすぎて疑ってしまう。
「いれたのは愛情と下心ぐらいだよ」
ココさんは極端なふたつをあげた。
「今日、会うのを考えながら食べてりゃあ、意識もするだろうな」
「意識って・・・」
「イベントの夜におれらに会うってのは、確実にセックスをするって意味だぜ。バレンタインが近づくにつれて溜まってきただろ」
トリコさんの露骨な言い回しにぼくは目まいがしそうだった。
刷り込まれたとしか言いようがない。
「おれらもおいしく小松をいただくために我慢したからな」
自慢げにいうトリコさんに、普段は品性溢れるココさんが同意するようにうなずいた。いやらしい感覚も消えてしまいそうなあほっぷりだ。そして、そんなあほの子がかわいいと思えるぼくも相当始末に終えない。
甘いチョコは昨日で終わったけれど、おいしいものはまだ目の前にある。高まる気持ちを抑えるために、ぼくは何度言っても言い足りない想いを告げた。
「好きですよ。だからぼくもおいしくふたりをいただきたいです」
ああ、でも何度言っても胸がどきどきする。
「マジがつきそうで小松が危険だ」
「安心しろ、こんな時のために小松くんのために滋養強壮にいい食材を冷蔵庫に詰め込んだんだ。明日はぼくのスペシャルメニューで小松くんを回復させる」
こそこそと(まる聞こえだけど)話す内容に、別の意味でどきどきする。
ぼくらのバレンタインの夜はこうして更けていった。ぼくの身に関しては、ココさんのスペシャルメニューが体に染みるほどありがたくおいしかったとだけ言っておこう。
終わり
らぶらぶで!