たまにカッコイイココを書きたくなる時がきます。今回もそんな感じでココマ降臨!
跪いて愛を乞え-後編-
「もう二度とあんな行動はしないでください」
閉店後、ヨハネスにレストランで起きた報告をしていつもより遅い帰宅となった小松は、ホテルの側の公園のベンチに座るココを見て感謝よりも彼を責めた。
「店のことにでしゃばってごめん」
一流の店だ。ココがいなくてもいずれ店の濡れ衣は晴れた。しかし、小松が陥れられる光景をココが見て黙っていられるはずがない。正当な行動だとココは謝罪しながらも確固たる意思があった。
「そうじゃなくて、自分を代償にする真似はいやです」
代償と言われてココは察することができない。
「もし、本当にココさんが名前も知らないひとに店のせいで跪くことになったら、ぼくは自分が許せなくなります」
「あれははったりだよ。ぼくにはあれが野菜に紛れていたものだとは思わなかったし。無謀な賭けにでるほどぼくは博打打ちじゃない」
軽口でココは言うが小松の表情は晴れない。小松が気に病むのは考えればわかっていたはずだ。
「ぼくは小松くんを見捨てたくない」
観念して本音を言えば、気持ちは伝わったのか小松はココを見た。
「ぼくのせいでココさんの格を落としたくないんです」
「格? 四天王としての?」
ココは小松を鼻で笑った。多少、好戦的になるのは、男への怒りが静まらない影響もある。
「きみはわかっていない」
言うと同時に、ココは地面に片膝を着いて小松を見上げた。
「ぼくはきみのためなら跪いて靴に接吻もできるよ?」
ココの発言に小松の顔が青くなる。
「やめてください」と上擦る声に、ココは早まった自分を知る。
「そんなふうに言われたら・・・困ります」
小松の頬が赤い。心底困った風情の目元をココは舐めたくなる。
「ごめん、でもきみが好きだよ」
勢いあまってココは告白をした。無謀な賭けにでるほど愚かではないといった矢先の、無計画な告白だ。無計画ゆえまっすぐで、そらさずに小松を見つめる。
「ココさん」
力のない声は動揺と迷いを表している。後どれくらいの想いを告げれば小松の背中を押せるのかココは考える。レストラングルメを陥れようとした男の下種な行動に怒りを抱くお門違いな自分を笑う。
ココは誘われるように小松の靴先に唇を落とそうとした。
慌てて小松がココの肩を掴んで引き起こす。
「ばかな真似はやめてください!」
小松が夜中だというのに大声でココに怒った。
「きみを手に入れるためならなんでもするよ」
告白した以上、今までのようにゆるやかに時間は過ごせなくなる。小松を手離したくないなら、強引にでも彼を手に入れるしかないとココは思った。手段を問うている余裕はない。
「それが困るんです」
小松ははっきりと言った。彼の意思の固さにココの心臓は砕けそうになる。
「まるでぼくが押し切られるみたいにココさんにこたえるみたいじゃないですか」
「押し切るつもりだし・・・」
「そんな手間をかけなくても」と言いながら小松はココの冷えた手を包んだ。
「ぼくはあなたに好きだと伝えます」
小松の言葉に、ココは一瞬なにを言われたか理解できなかった。
こたえられないココを小松が微笑み返す。
「あなたが誰かに、跪いてキスだなんて台詞を言うからすっごく気分が悪かったです」
「凄く」を強調する小松の、言いたいことが伝わってきてココは頭がパンクしそうになった。好意が信じられないなんて、自惚れるのも大概にしろとココは自分につっこみたくなる。一時の怯みで小松を手放すなんて過ちはしたくない。
「なりふり構っていられないからなんでもできるよ。きみのためならね」
跪くのはただの手段だ。小松のためなら土下座して周囲になんとささやかれようがココは気にしない。
「でもこの高さならキスをするのも楽だね」
ココは目の前にある唇にキスをする。少しだけ見上げるかたちのココのキスは、小松を驚かせ、甘く蕩けさせた。嬉しいと語る小松の微笑が眩しくて、ココは目を眇めた。
跪いて靴にキスして彼が手に入るなら安いものだとココは思う。だけど今は打算など抜きにして告げたい。
「好きだよ、小松くん」
終わり