料理陰陽師小松 其の四十四
食の衝動をどうにかできるものならとっくに動いている。
言えば、気弱と返されそうだ。
人間を喰うことにためらはない。今までそうして生きてきた。
だけど、小松が悲しむのを想像すれば人間は食べられない。
おれはあいつの悲しむ顔を見たくなかった。
あいつは笑い顔がよく似合うし、好きだった。
『さわらないでください』
怯えたあいつの顔が浮かぶ。
拒まれた衝撃が大きすぎて空腹も消えそうだ。
「あいつは陰陽師のところから抜けたっていうなら、別の土地に住まわせればいいんじゃねえの?」
妖怪とともにいるよりいい。
「おまえは・・・」ココは重い声で言った。
「平気なのか? 小松くんが側にいなくて」
「平気な訳あるか」
側にいなければ苦しい、側にいるなら嬉しい。
組織のしがらみを抜けた小松ならともにいられると夢をみるほどだ。
簡単にはいかないとわかっているのに。
「ぼくは・・・小松くんにいてほしい」
ココは静かに言った。こいつの口からなにか「ほしい」と聞いたのははじめてだ。
ふいに、地面が揺れる。ここ数日地震が続いている。この土地で生まれて、こんなに頻繁に地震が続くのははじめてだった。
小さな揺れがおさまると、おれはゼブラが封印された岩に手をおいて立ち上がった。
「ん?」
岩に亀裂が入っている。
「おい、見ろよ」
ココも亀裂を見て驚いた。
「地震のせいか?」
「否定はできないが・・・」
「これでゼブラの封印が解けると思うか?」
「どうだろう、そうであればいいと思うけど、正しくない順序で解けた封印はゼブラにとっても危険な気がする」
ココは唸った後、小松に相談しようと言った。
おれら妖怪が考えるより、封印をした陰陽師の方が詳しいだろう。
続く