料理陰陽師小松 其の五十二
リンさんが案内した先にいた人物はぼくの予想通りの人物で、陰陽師のなかでも最高位に位置するマンサムさまだった。
「小僧に対する意見は内部でもいくつかに別れておる」
マンサムさまは太い指を二本立てる。
「美食山の妖怪の見張りにするか、生贄にするか」
どちらも聞こえはよくないけど、ぼくを処分する案が薄いというのは喜ぶべきか・・・。
「見張りの意味合いはわかるとして、生贄とは?」
「人間を喰う鬼の貢だ」
マンサムさまが言ったとたん、背中からもの凄い殺気を感じた。
遠く離れているのに、よくぼくらの会話がわかるものだと感心する。
「愛されておるなー」
彼ら三人の殺気を直接受けたマンサムさまは笑っている。豪胆な神経だ。
「わしとしては前者がいいと思う。小僧の身も安全だ。懇意にしておるのだろ? 美食山の妖怪と」
指摘に、ぼくは胸を張ってうなずいた。
今さら彼らと関わらない日常は考えれない。
「小僧の力は特殊だ。魔を祓うというより、誰もが持つ負の感情を穏やかにする能力だろう。特殊すぎて小僧の能力をどう区分していいかわからぬがな」
マンサムさまの言葉に、また背中に納得だと言わんばかりの空気が届いた。
「奴らの気を常に静めさせる方が小僧のためだ」
「ですが、もともと彼らは悪さなんてしません」
彼らの名誉のためにもぼくが言えば、マンサムさまは豪快に笑った。
「すまなんだな、小僧の好きなようにやればいい。人間の世界にも戻りにくくなっただろう。だが後悔のないよう生きろ」
言葉は、以前梅田さまから聞いたのと同じ内容だった。
陰陽師としての力量を認めながらも、それよりもぼく自身を心配してくれた言葉が嬉しい。
人間側から逃げたかたちになったぼくだけど、マンサムさまの言葉はひたすら感謝の思いでいっぱいだった。
ぼくの返事は決まっている。
「彼らを見張るつもりはありません。ですが、彼らと平穏に過ごせる努力は、この包丁にかけても誓います」
続く