料理陰陽師小松 其の五十三
「監視といえば聞こえは悪いが、梅田が式神を小僧のところに定期的に寄こすことになっている。式神が小僧の生を確認する限り、この山に手出しはしない」
「ありがとうございます」
「礼なら梅田に言え。あいつはこの案を通すために奔走した」
マンサムさまはそう言い残すと山から去っていった。
仲介役を引き受けてくださったのがマンサムさまでよかった。
采配に梅田さまの意思を感じる。
感謝したい。
彼らの山が荒らされないで済むのだから。
「小松くん」「松」
ほどなく、ココさんとサニーさんが駆けつけた。
漆黒の羽を羽ばたかせてココさんが大地に降り立つ。同時にきらめく髪と衣を翻して大地を蹴るサニーさんが辿り着く。
だけど、トリコさんはいない。
たまに気配を感じるけど、長い間トリコさんを見ていない。
もう二度と会えないかもしれないと、ばかなことを考えたのは一度や二度じゃなかった。
ぼくはふたりに、美食山への陰陽師の計らいを伝えた。
「小松くんの身に危険が迫らないのは嬉しい」
ふたりが喜ぶのは面倒が減ったからだと思えば、ココさんはぼくを心配する台詞を口にした。
こーゆうのは照れてしまう。
「ぼくも、みんなが平和に暮らせるのが嬉しいです」
妖怪といえど彼らは面倒というか争いを好まない。
ココさんはお茶を飲み、
サニーさんは髪や衣装の手入れをして、
トリコさんは酒を呑む。
ココさんのお茶請けを作ったり、
サニーさんが見つけた果実を料理したり、
トリコさんのお酒のおつまみを用意したり、
そんな日々がたまらなくいとしく思えて、彼らから離れたくないって強く思うんだ。
それなのに、ここにトリコさんがいない。
「小松くん?」
ぼくの目から零れた涙をココさんの指がすくう。
サニーさんが、以前お気に入りだといって見せてくれた小さな手ぬぐいをぼくに差し出してくれた。
さわり心地のいい布に涙が吸い込まれていく。
ぼくの涙はしばらく止まらなかった。
この涙はなんだろう?
続く