料理陰陽師小松 其の二十
「都を荒らす妖怪の所業、目に余る」
その一言で、妖怪を退治に出向く案が出された。
たしかに一時治まっていた妖怪の悪さ(おそらく美食會だが再び活発になっている。
「およそ五十年前、美食山にて一匹の妖怪が封印されました。他にも仲間の妖怪が三匹います。まずはそこから叩き潰して・・・」
「待ってください」
ぼくは意義を唱えた。
「美食山に悪さをする妖怪はおりません。ここより北東に位置する美食會の妖怪が都を荒らしているのです。退治ならまずそちらからいくのが妥当と思われます」
「ふたつの山を根城にする妖怪に関係性はないと?」
「妖怪だからといってみんながみんな、仲がいいとは思えません」
「ずいぶんとお詳しい」
含みのある言葉に、ぼくは喋りすぎた自分に気づいた。
「小松ちゃん」と、会議の場では「ちゃん」なんて呼ばない梅田さまが、諭すように声をかけた。
「あなたが美食會の妖怪にこてんぱんにやられて仕返ししたい気持ちはわからないでもないけど落ち着きなさいな」
何ヶ月も前の話を持ち出した。
そういえば、と周囲の仲間も、ぼくが美食會を叩きのめしたいと意識が刷り込まれる。
会議は翌日に引き延ばされた。
自室に戻ると、詰めていた息を吐いた。肩から力が抜ける。思っていた以上に緊張していた自分を知る。
トリコさんたちが悪いことをしていると言われたようで気分が悪かった。
それを否定できない自分がいやだった。
否定したら、トリコさんたちと仲がいいのが知られてしまう。
妖怪と仲良くする陰陽師。それはひとの敵でもある。
ふいに、窓際から音が聞こえた。
月が明るく、鳥の影が障子に映る。
って、夜中に鳥?
ぼくは急いで明かりを取り込む障子を開けた。縁には鴉がとまっている。
「ココさん?」
まさかと思って聞けば、「クワァ」と鳴いた。
「お久しぶりです。元気にしてましたか? トリコさんやサニーさんは?」
『ちょっと今立て込んでいるから、しばらく美食山には来ない方がいい』
鴉の声帯で喋るのは無理があるのか、少ししわがれた声だった。だけどココさんの響きだ。
「なにかありましたか?」
わざわざ来ない方がいいなんて忠告を、陰陽師が集まるこの敷地まで言いに来る危険を、ココさんがするのは不自然な気がした。
なにかよくない気配を感じる。
続く