今年最後の更新はトリココマのらぶ!な話でしめくくりたいと思います。
「指輪」
ある日、おれとココは珍しく小松のアパートに呼ばれた。
五つ星ホテルのレストラン料理長にしては狭い住まいは、規格外の体格を持つおれたちが入るとさらに狭くなる。そしてヤルとなると小松が隣人を気にするため、自然に集まるときはおれかココの家になった。
道中ココと話しをしてもわざわざ呼ばれる理由が見つからない。
アパートの前から香る小松の料理たちに気合を感じて、なにか記念日を忘れているのかとふたりして青ざめた。
「いらっしゃい」と出迎える小松はいつもと変わりない様子でおれたちを食卓に招く。
すでに準備できている料理。
ただ、ナイフとフォークが用意されてなかった。
「おふたりにプレゼントです」
小松はおれとココに薄い箱を渡した。
「開けてもいい?」とココが聞く。
包みを破り、箱を開けるとナイフとフォーク、スープスプーンとデザートスプーンがあった。
「これは?」
手に馴染むサイズのそれを掲げる。
「結婚指輪の代わりです」
屈託もない小松の台詞に自分の耳を疑う。真正面の顔を見れば真っ赤になって毒気をだしている。聞き間違いではないようだ。
「トリコさんとココさんにとって両手は武器なので指輪はだめだと思ったんです。ぼくも料理をするので指輪はなくしそうですし」
カラトリーならぼくたちらしいでしょ?
驚くおれたちを見て小松は勝ち誇った笑顔だ。
「なあ、ココ」
「うん?」
「おれって人間の三大欲求のなかで食欲だけが突出してるって言われるけど」
「真実だな」
「小松はそれを越えそうになる」
「否定しない」
「えぇー?!」
プレゼントしただけでなに興奮してるんですか! と小松はおれたちの頭をぺしりと叩いた。
ひどく幸せな瞬間だ。刹那ともいえるこのときを作ってくれる奴は、食事が冷めます! といってキッチンへ消えてしまった。
「見なよ、トリコ。すべてのカラトリーに『FROM K』と刻まれている。サイズもぼくとトリコのでは違う。ぼくらが食べやすいものを小松くんは必死に探してくれた」
「ずっと食事を食べさせる証を食器で表現するなんて、料理人らしいぜ」
ひかる銀のカラトリーはダイヤモンドに負けない輝きだった。
「綿毛豚を先日十夢さんから安く譲っていただいたんです。今日はまるごと使い切ってみたいと思います」
綿毛豚の血を使ったリゾット。南の島の郷土料理といわれる豚足、スペアリブ、ロース、エトセトラ。
いつものペースなら一瞬で終わる量だが(小松の部屋は広くないのでおれたちの分を料理するにはスペースが足りない)、
今日はゆっくり・・・(できるか、おれ?)ゆっくり味わいたい。
小松がくれたカラトリーを使って食事をしたい。
まずは、
「いただきます」
食事と小松に感謝の気持ちをこめて、おれとココは手を合わせた。
終わり