ってな訳でトリコ愛され話・・・だと思います。
共同戦線
「誕生日、ですか?」
大きな目をさらに大きくさせた小松が、ココの言葉を重ねて聞いた。
「5月25日。覚えやすいよね。ってもう明日か」
カレンダーを呑気に見やるココとは、対照的に小松は悲鳴を上げた。
「な、なんの準備もできない」
トリコに感謝の気持ちをこめてなにかプレゼントをしたいと思うが、時間もなければアイディアも浮かばない。
「なにを贈ればいいのかわからない」
食べ物以外興味のない男で、しかもそれ以外の趣味や好みを知らない。
親しくしながらも実はなにも知らなかった事実に気づき、小松は二重にショックを受けた。
「料理を贈れば喜ぶよ」
「いつもと同じで特別感がないじゃないですか」
せっかくの誕生日を盛り上げたいとイベント意識が強くなるのは、季節によってレストランの企画を生み出す料理人ならではの思考だ。
「8耐コースってどうかな?」
「なんですか、それ?」
「8時間耐久レースならぬコース料理」
「食べる側のトリコさんは耐える必要ありませんが、作る側にとっては過酷なレース・・・じゃなくてコースですよ」
以前、トリコが虹の実を食べに来たときは嵐だった。
あれは大勢のスタッフがいたからゴール、ではなくデザートまで辿りつけたのであって、ひとりでは2時間が限度だ。
「ぼくも手伝うよ。大量である必要はない。食いしん坊ちゃんだからいろんな料理をだせば喜ぶし、ぼくも小松くんとキッチンに立つのは楽しそうだ」
ココの真意は最後の一言に詰まっていた。
「楽しそうって、8時間耐久ですよ?」
レストランのピークだって8時間はありえない。
「8時間、あいつに「うまい」って言葉を言わせ続けるのはシェフとして魅惑的じゃない?」
「おもしろがってますね、ココさん」
小松が笑う。了承の意味として受け取りココは携帯をだした。
「トムさん? ココです、急にすみません。明日トリコが8時間食べ続けても大丈夫な量の食材をあいつの家に届けてくれませんか? 10時にお願いします」
お昼スタートで仕込みを考えれば妥当な時間だ。食材リストは後で携帯メールで送るよう頼んでココは携帯電話を切った。
「じゃ、明日は決戦だね」
8時間コースならあいつもびっくりするだろうといってココが笑う。
「デザートはびっくり箱みたいに楽しいバースディケーキを作りましょう!」
小松の思考も構想を開始させる。
「楽しみだね」とココがいえば「はい」と元気に小松も返した。
「誕生日でも小松くんに無茶は厳禁。小松くんのごはんを作るから、小松くんにいたずらするなよ」
トリコに念を押してココは片づけが終わっていない台所に消える。
万全の体制と自負したふたりだが、トラックで搬入された食材は8時間を前に底が尽きた。計画が中途半端な結果に終わり、小松も燃え尽きた。
ぐったり中の小松を、トリコはひざにのっけて黒髪を撫でる。
ふたりのびっくり企画を壊すかたちとなったトリコだが、ケーキを食べたあと嬉しさのあまり食が進んだと告げれば彼らは笑った。
口内に残る甘い余韻はケーキと、ふたりから贈られた祝福の気持ち。
終わり
トリコが一言も喋っていないBDネタって・・・。