Misty eyes
「小松くんを支配していい?」
そう言ってココさんは、ぼくが返事をする前に行動に移した。
なにが起きたかわからない内に押し倒される。しかも、ちゃんとベッドの上だから丁寧このうえない。
長い時間、研究所で管理された生活をしていたココさんは「支配」や「コントロール」に敏感だった。
他者に踏み込まない生活を送ってきたのは、それが理由じゃないかな、とぼくは考えている。
だから、ココさんが求めてくれたときは嬉しかった。
たまに不思議な言語でぼくに話かけてくるけど、ココさんなりの愛情表現だってわかっていたから怖くはなかった。
セックスもぼくが馴染むまで根気よく待ってくれたし、情熱的だけどガツガツした感じはなかった。
ココさんが優しいひとだと改めて思ったのは、優しさを演じていると知ってからだ。
トリコさんとのハントで擦り傷を作ったぼくに、ココさんは恐ろしい目を向けた。
「たまにはこういったのもよくない?」
容赦のない愛撫に啼くこともできずに怯えるぼくに、ココさんは言った。
「怖くないよ」
と。
次の夜は予想に反して甘く、ぼくはびっくりした。ココさんは笑って「前は突然すぎたね」と濁した。
「たまには」が隠された本心だと、このときぼくは初めて気づいた。
ココさんはまだ、いろんなことを隠し持っている。全部話せと言うのは乱暴すぎて口にできない。
だから、言った。
「たまになら」と、彼の望むことを受け入れよと。
「あまりぼくを甘やかすと、つけあがっちゃうよ?」
「それはそれでおもしろそうです」
つけあがることなんてしないくせに、と、何故だがぼくは思った。
このひとの全部を、どうやったら引き出せるのだろ?
ぼくに優しいココさんも、ぼくを底なしの快楽に突き落とそうとするココさんも、全部。
腕のなかにいてもあなたは遠い。
終