すべては夢の蝉時雨
夏の盛り、蝉の死体が道の先々に落ちている。
こんなにも暑いのに、昨日まではうるさいぐらい泣いていた蝉が物言わぬ塊になるのは、世の理だとしても無常を感じる。
道と小松くんが陽炎のように揺らめく。
「蝉みたいに一週間で消える命なら、ココさんはぼくにこたえてくれますか?」
地面に転がった蝉を見ながら小松くんが呟く。
ぼくのこたえは決まっていた。
「一週間後に消える命なら、黙って土に還るだけだよ」
土がぼくの体を受け入れるかどうかは別として。
たった一週間でも、それを理由に小松くんを手にいれる度胸はなかった。
そんな刹那的な関わりで、彼の一生のほんの少しを手にしたいなんて思わない。
「ぼくが、一週間後に消える命なら?」
小松くんがぼくを見た。
真意を知りたくて視ているのに、なにも視えない。陽炎のような景色だけだ。
「あなたの前から永遠に消えるとしても?」
責めるような声が哀しい。どこかで聞いたことのある声音だ。
「だめですか?」
追い詰める声が頭に鳴り響く。
小松くんの手をとれば、ぼくは地獄の底からでも彼をひっぱりあげるだろう。
世の理を覆してでも。
飛び起きた。
一瞬で今までの映像が夢だと理解する。
顔に手を当てれば、濡れるほど汗を滲ませた自分に気づいた。
・・・ばかな夢を見た。
となりに同じように裸で眠る小松くんを見下ろす。
静かだ。昼間の蝉の鳴き声など、嘘のような静けさだ。
狂ったように鳴く蝉が、ぼくになにか訴えたかったのかと考えるほどだ。
惑わされるな、ただの夢だ。
夜はひとを狂気に招く。
終
たけひよさんに捧げます!