告白5秒前
「知っていたよ、きみがトリコのパートナーになりたがっていたのを。あいつは常につき進むからね。新しい食材とも出会える。向上心の強いきみにはいい美食屋だ」
トリコとコンビを組むことになったと小松がココに報告した後の、彼の第一声は淀みない。
まるで謳うような滑らかな声に、小松は戸惑う。
「おめでとう」という暖かな言葉に温度はない。
「ぼくは・・・」
僅かな落胆を呑みこみ、小松は口を開く。
「トリコさんにいろんなことを教わりました。憧れの美食屋です。トリコさんが命と真摯にむきあった食材を、どんな料理に進化できるのか想像するだけでワクワクしました」
「うん、きみらしいね」
「だけど、ココさんは勘違いしています。フルコースを作りたいのと、毎食作って食べてもらいたい気持ちは別です」
「うん、わかっているよ」
物わかりのいい顔でうなずくココの足を、小松は蹴飛ばす。
「好きだって言わないと気づかないんですか!」
ココを見上げて小松は怒鳴る。
「わかったふりしてぼくを諦めないでください」
「小松くん・・・?」
激しい小松の感情に、ココはついていけず呆然とする。呆けた呟きに、小松は顔が赤くなった。
「でもすべてぼくの勘違いだったらごめんなさい」
言うだけ言って感情が落ち着いたのか、小松は謝罪するとココの前から走り去った。
「えーっと?」
ココは展開が信じられていない様子だ。
「つまりは好きだって意味だろ」
横に控えていたトリコが言う。本当は最初からいたのだが、ふたりの意識からそれていた。
「おれがコンビを申し込んで気づいたようだぜ、あいつ、自分の気持ちに」
つまりは、フルコースを完成させたい野望と、毎食食べてもらいたい希望の差だ。
「ま、おれとしてはあいつに恋人がいない方が連れまわすのに都合はいいけどな」
トリコの言葉が引き金となってココを動かす。
「待って、小松くん!」
告白5秒前の出来事。
終わり