ココの愛情クッキング
小松くんの部屋にお邪魔をすれば、出迎えたの家主は目の下に隈をつくって力尽きる寸前だった。
「どうしたの?」
電磁波を視れば休んでないのは明白だけど、なにが彼を徹夜に駆り立てたのか気になり聞けば、
「急にレシピのアイディアが浮かんであれこれ試していたら、こんな時間になってしまいました」
予想通りの返答だった。
「すみません、掃除できてなくてココさんを部屋にあげられません」
肩をしゅんと落として小松くんは反省する。料理に夢中になるあまりぼくが来るのも忘れて、汚いからといって部屋をあげるのを渋る彼が非常にほほえましい。
「ぼくもひとり暮らしで普段はまあ、ちらかってるから大丈夫」
「うー」
徹夜で意識が朦朧としているのか意味不明な唸り声だ。
「なにか食べる? ごはんにして気分を変えよう」
「そうですね。お昼ですし、リクエストがあれば作りますよ? それとも外へ行きますか?」
小松くんは当然のように自分が作ると言い出した。
「ぼくが作るよ。簡単なものしか作れないから料理長にだすのは恥ずかしいけどね」
ぼくはかばんの中身を小松くんにみせた。瓶詰めのネオトマトソースが早速役に立つ。
「パスタでいい?」と聞けば、隈ができた小松くんの表情が輝いた。
「ぼく、ココさんが作るネオトマトソースのパスタは大好きです。ネオトマトを熟知しているココさんならではのおいしさですよね!」
嬉しそうな小松くんにぼくも嬉しくなる。
以前ぼくの家で小松くんにごちそうしたとき、大変喜んでくれたので今日はおみやげにトマトソースを持ってきて正解だ。
疲れた体には酸味のきいた軽い味付けの方がいいだろう。普段青菜を食べる機会が少ないと言ってたの思い出してワールドキッチンで何種類か購入した。チーズ系は胃にもたれそうだから今回は控えよう。
小松くんを席につかせて休憩させる。ぼくが淹れたお茶を飲みながら、小松くんは試作中の料理のアイディアを話してくれた。ぼくも支度をしながら話を聞く。
料理をしながら楽しい気分になるのは、小松くんがいるからだ。自分のために作るときは楽しいと思わない。むしろ流れ作業で終わる。好きなひとのために作るって偉大だ。
小松くんがぼくのために作ってくれる感情が、ぼくと同じものであるなら嬉しいけど、焦ってはいけない。まだだ、まだ早い。しかけどころを間違えてはいけない。
「おいしいです!」とパスタを頬ばるきみを当分はおとなしくは見守ろう。
眠くて集中力が足りないのか、小松くんにしては珍しくソースを口のまわりにつけている。どこぞの食いしん坊ちゃんがやったら「品がない」で終わるけど、小松くんだと「かわいい」と胸がときめくから不思議だ。
手を伸ばして口の端についてソースを拭い、指についたソースを舐める。
「ティッシュならあります」と教えてくれる小松くんの顔は赤い。
しかけどころを間違えるつもりはないけど、うっかり間違えそうで危険だ。
この恋はトマトソースのように酸味と甘さが際立つ。
終わり