LOVE。すれ違う・・・!!
8/時を駆ける小松
その日のぼくは散々だった。仕事でミスをしなかっただけマシ、というのは言い訳だ。いつも最高の状態でおいしい料理をお客様に食べていただきたいのに、ぼくは100%の満足を提供できた気がしない。
今月末。いつもハントのときに無理矢理休みをもらっているだけに、上司のぼくが今さら休みの申請をして他のスタッフに迷惑なんてかけられない。
日付が変わる前、アパートに帰りついたぼくは、鍵を開けるまで室内に明かりがついていることに気づかなかった。
「トリコさん?」
トリコさんにはアパートの合鍵を渡してある。急いで開ければ、狭いぼくの部屋に窮屈そうに座るトリコさんがいた。
嬉しさにテンションがあがる。
「山で採ってきた」
トリコさんは新聞紙にくるんだウドをぼくにくれた。
トリコさんはたまに、スイーツハウス周辺の山で生る山菜を採ってくる。それは高級植栽ではないけど、旬のおいしさがふんだんに詰まっている美味なる食材だ。料理をしないトリコさんは、そのままでは食べにくい山菜など今まで見向きもしなかったみたいだけど、調理をするとぼくが言ったら季節毎に採ってくるようになった。たまに探検がてらふたりで採りに行くときもある。
「これでなにか作りますね。酢味噌であえるのもいいなぁ」
今日は和食づいていると考えていたところ、トリコさんがぼくの肩を掴んで引き寄せた。びっくりしたけど、甘い雰囲気のないそれに緊張した。
「ココの匂いがするな」
「お昼を一緒に食べました」
相変わらず凄い嗅覚だ。
「おれに会うのは大変でも、ココとなら会えるのか?」
言われた言葉の意味が、ぼくはわからなかった。
鈍いぼくだけど、トリコさんがぼくを良く思っていないのはわかる。トリコさんのぴりぴりとした空気が肌に突き刺さった。
「会うと言ってもお昼をちょっと一緒に食べたくらいで」
時間にして一時間もいられなかった。だけど、トリコさんにとってそんな問題ではなかった。
「トリコ・・・さん?」
ぼくを見る目の冷たさに、呼ぶ声が震えた。
「もうおれには興味がなくなったか?」
「違う」
ぼくは叫んだ。
「好きです、大好きです、トリコさん」
会おうとしない理由は愛情がないからじゃない。だけど、伝え方がわからなくて、否定に戸惑いが潜んだ。ぼくの動揺を見逃すトリコさんではない。ぼくをじっと見つめた後、小さなため息を吐いた。
「最近なんか変だったけど、なにかあったか?」
問いかけは、トリコさんの優しさだ。事情を知りたいのを我慢して理由を聞く。ぼくが言うのを待っている。
・・・過去に行けて、トリコさんと会っているなんて証拠もないことは言えない。
ぼくの躊躇を察したトリコさんは踵を返した。
「帰る。おまえが望むならしばらく会わない」
ぼくに背中を見せたまま言われた台詞に凍りつく。
追いすがって勇気をだしてトリコさんに説明すればよかったけれど、ぼくはなにもできなかった。
トリコさんに嫌われる可能性をどうして考えなかったのだろう?
続く