トリコさんハピバー!!
「誕生日時々告白」
「誕生日のプレゼントはなにがいいですか?」
元気よく本人に聞く小松に、トリコは勝負をこめてこたえた。
「おまえがいい」
トリコは「思い立ったが吉日」を座右の銘にする男だが、なかには通用しない相手もいる。その代表が小松であり、トリコのパートナーだった。小松にパートナーを申し込むときも邪魔がはいり出鼻をくじかれている。
「わかりました!」
小松が胸を張ってこたえる。
「好きだ」と具体的なことを言ってないうちに了承がもらえて、失礼な話だがトリコは驚く。
「では25日に!」
トリコが「え?」と思う間もなく、小松は去った。明日は早いと言った小松が、駅で颯爽と別れるのも当然かもしれないがトリコは肩透かしを食らった気分になる。
期待せずに、でも期待しつつ25日を迎えれば、小松が朝からスイーツハウスに来た。
「グルメ便がお昼ごろに来るので、受け取りも兼ねて早くに来ました」
と、相変わらずの元気ぶりだが、大きな目の下には隈がある。
小松はトリコの誕生日まで、自宅で保存できる料理や下準備をして過ごしてきた。トリコを満足させる料理をひとりで作るには、一日ではできない。丹念に準備をしてきた結果が睡眠不足だ。グルメ便で食材も届いたら料理をはじめると小松は言った。
「夕方にはココさんたちがきますよ」
「声をかけたのか?」
昔なじみで誕生会など冷やかしの種でしかなくてトリコは気恥ずかしくなる。
「はい、トリコさんの誕生日に料理をプレゼントすると話したら、スイーツハウスでパーティーをなりまして・・・了解もなく決めてすみません」
小松の説明に、スイーツハウスのくだりより、誕生日プレゼントが「料理」と受け止めていた事実にトリコは泣きそうだった。
(告白してないうちから期待しないって言っただろ、おれ)
トリコは自分を奮いたたせて、「気にするな」と小松にこたえた。
小松は家に泊まるだろうか、ココたちを早い時間に追い返すことはできるだろうか(トリコの気持ちを知る彼らに冷やかされるのは目にみえている)。トリコは、自分の誕生日をゆっくり味わう状況ではなかった。
ふいに、小松があくびをこぼす。仕事の合間を縫ってグルメ便でなければ持ち込めない量の料理を用意した小松のがんばりを考えれば当然かもしれない。
「グルメ便が来るまで寝てろよ」
トリコが言えば小松は「もったいないです」とこたえた。
「久々にトリコさんと会えたのに」
拗ねる口調が微笑ましい。
「またハントに行こうぜ」
食材は決まってなくても、旬な食材は星の数ほどあり、ひとつひとつが美味でトリコを惹きつける。気が多すぎて迷えば小松が「あれは? これは?」と提案してくるので依頼ではないハントの計画は楽しかった。今回も小松がなにか提案してくるかと思ったが、予想に反して「そうではなくて」と何も食べていないのに口をもごもごさせた。
「トリコさんは鈍すぎます」
目を明後日な方向に泳がせならが、どんな好意的に受け取ってもトリコを非難する台詞を小松が吐いた。
(おまえがソレ言うか?!)と叫びたい気持ちを、トリコはぐっと抑える。
「じゃあ、鈍いおれにわかるように説明してくれ」
トリコは意地悪く言った。
「説明なんてありません」
速攻で切り返す小松にトリコは本日何度目か忘れたが、肩を落とした。
(つーか、なにが言いたいんだ?)
本気で小松がなにを言いたいのかわからないトリコは鈍いと責められても文句は言えない。
「・・・好きですって言いたいんです」
大声で快活な口調で喋る小松の、小さな、聞き取りにくい声の告白に、トリコは耳を疑った。
「もう一度」と急ききって小松に近づこうと身を屈めたトリコは、急に頭をあげた石頭に顎をぶつけて、両者は痛みにしばらく無言になった。
「もっとかっこよく告白したかったのに台無しです・・・」
落ち込む小松に、彼なりのプランがあったのを察してトリコは嬉しくなる。
「おれは嬉しいぞ、どんな告白もおまえがしてくれたならな」
話しかける声が思いきり甘く、猫なで声に聞こえてトリコは自分で気持ち悪くなる。まるで媚を売るようだ。誰にも屈するつもりはないが、それでも無意識というのは、小松を求めて必死だ。
「好きだぞ」
トリコの告白に、小松は悪巧みをするような笑みを返した。
「実はちょっとだけ知ってました」
「・・・本当か?」
疑わしげにトリコは聞いた。
「だってサニーさんたちにトリコさんとパートナーになった報告をしたら、みなさん「人生の?」って聞いてくるんですよ? なんでそんな発言になるか気になるじゃないですか」
小松の無邪気な発言に、トリコはスイーツハウスから逃げ出して昔馴染みの連中と数年会いたくない衝動に駆られた。
(いや、これは感謝すべきなのか)
若干トリコは動揺していた。
それでも頬を赤く染めながらも、元気に自分を見上げる小松を見てトリコの機嫌は急上昇だ。
「このままふたりで一日、いたい」
夕方から来るという友人らを蹴飛ばしてしまいたいトリコだった。
「ぼく、夕方にはココさんたちが来るっていいましたよね?」
小松は心配そうにトリコに聞いた。遠慮なくトリコにつっこみをいれる小松の図太さは貴重だ。小松の、ひとつひとつが大事だった。雨粒のような小さな一粒でも、降り続ければトリコの全身を濡らせる。
大地に染みこむように、小松は「トリコ」に染みる存在だった。
大地と雨のように早くひとつに交わりたいとトリコは思い、「いやらしいことじゃないからな」と心のなかでつっこんだ。
トリコが葛藤するなか、玄関からグルメ便の配達員が声を家内の人間を呼ぶ。「はーい」と小松は大きな声でこたえてトリコの前から走り去った。
告白を終えたふたりだというのにムードもなく、日常のままでトリコは拍子抜けした。肩は落ちるが、徐々にあがる口の端と同様に気持ちも浮上する。
まずは今夜、小松に泊まるよう勧めることを考えながら、トリコは荷物の受け取りのため彼の後を追うのだった。
ハッピーバスデー!
終