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WJ連載中「ト/リ/コ」の腐/女/子サイト  【Japanese version only.】

2024'11.23.Sat
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2009'07.22.Wed
無性に好きです、サンドイッチ。ロマンを感じます!

サンドイッチ

「腹が減って死にそうだ」
 レストラングルメの営業が終了する寸前、哀れな声をだして現れたトリコに小松とスタッフ一同は仰天した。
 トラック一台分の食料を軽く平らげるトリコの胃袋が空っぽとは、どれだけの料理を用意すればいいのかわからない。しかもラストオーダーは終わり、明日は平日のため食料庫には余分がなく、なにもかも中途半端な量の材料しかない。
 見れば、レストラングルメに食事に来るときは必ず正装するトリコがラフな恰好だ。
「一体どうしたんですか?」
 気を利かしたスタッフが厨房の裏口に続く通路にトリコを案内をする。本来ならラストオーダーが終わっているため入店も断るところだが、四天王トリコが小松と懇意なのはスタッフらも知っているし、持ってきた食材を小松も含めた彼らにお裾分けしている現状がトリコへの対応を変えていた。
「ハントが時間勝負でつまみ食いする余裕もなかった」
 一日の消費エネルギーが常人をはるか上回るトリコが空腹となれば、本当に死活問題だろう。
 大きな男が腹を抱えて蹲る姿に、スタッフがそっと料理長に渡した。
「料理長、これを」
 寸胴に半分ほど残っている野菜スープをさしだす。
 本来なら寸胴から一気飲みなどレストランからすればマナー違反だが、厨房だしと大目にみる。
 空腹なトリコのために、胃に優しいスープからはじめ、重いシチューに進む。
「残りものばかりで申し訳ありません」と、小松が謝る。
 他のスタッフは小松の料理の下準備が終わると帰らせた。銀色に光る厨房にいるのはトリコと小松のみだ。
 最後にスタッフが大量に用意したグルメブレッドのパンを、パン切りナイフで食材にあった厚さに切り、ハムや野菜を挟んでトリコに差し出していく。渡した側からサンドイッチがトリコの口に消える。厨房にいながら野外料理みたいだと小松は思った。
 パンにいろんな具材を挟む。小松は作りながら、こんな組み合わせはありだろうかと考えながら作った。サンドイッチは簡単に作れる割に派手な失敗がないのが救いだ。
「うまい! 小松のサンドイッチは最高だ」
 トリコは頬張りながら絶賛する。
「サンドイッチぐらいで大げさな。誰が作っても同じですよ」
 ストライプサーモンのスモークと玉葱をスライスした具材のサンドイッチを渡しながらいう。スパイスにブラックペッパー、隠し味にプラチナレモンをふりかける。グルメブレッドのパンと最高級の食材を使ったサンドイッチだ。まずいはずがない。
「シンプルだからこそ、うまいものをよりうまくするにはセンスがいるぜ?」
 トリコが一口で食べる。
 次にココアマヨネーズを黒草のサンドイッチを渡した。トリコがリーガル島で「うまい」と叫んだ組み合わせだ。サンドイッチの方も「うまい」と叫んでもらえて小松は嬉しくなる。
 味見もしたことのない組み合わせを提供するのはスリリングだ。もっとも、食材を知る料理長だからこそ生まれる感覚がおおいに働いている。だがトリコが「おいしい」と感じるのは、小松の料理センスばかりではない。
「おまえがおれのために作ってくれると思うと余計にうまく感じる。あれだな、オフクロの味?」
「お袋、ですか?」
「誰が作っても同じな料理じゃないぜ、おまえの味は」
「ありがとうございます」
「言っておくがお世辞とかじゃないぞ」
「トリコさんが食事以外に口を動かすとは思ってませんよ」
 お世辞などトリコの性格から絶対ないだろうと思うし、なにより彼の口は美食のためにあると言ってもいい。
 わかっていますと小松が言えば、トリコはにやりと笑った。口の端にココアマヨネーズがついているのがかわいい。
「メシ以外にも動かせるぜ?」
 思わせぶりな口調に小松が笑う。
「知ってますよ、腹減った、うまい、もっと食べたい、ですよね?」
 茶化して言えばトリコが大きくうな垂れる。
 大量にあった幾種類ものパンと少量の食材たちも底を突き、最後にありとあらゆる食材を挟む。
 スリープ羊の乳で作ったチーズ、ガララワニのロースト、羽衣レタス、サマートマトのスライス。この素材でまずいものを作ったら罰があたる。
 誰が作っても味は変わらないというのは小松の本音だ。トリコが別のことを思っているのは意外だったが、誰かのために作る料理のおいしさはまた格別なのも小松は知っている。
(女性に言えば泣いて感激するだろうな)
 余計なことなので小松は胸のなかの感想を口にしなかった。
「はい! 本日最後のレストラングルメスペシャルサンド」
 高さ十センチもあるサンドイッチをトリコに渡す。大げさなもの、派手な見た目のものが好きなトリコは子供のように喜んだ。
 空腹感は消えたと、三十人前を平らげたトリコの規格外れな発言に今さら小松は驚かない。
「厨房を片付けますね」
 暗に、先に帰っていいからと言えばトリコが「手伝うぜ」と立ち上がった。
「メシを強引に食わせてもらったんだからな」
「手伝ってもらうほどでも」
 火は一切使わなかったので、片付けるのは包丁、まな板、作業台を拭いて最後にゴミの始末をするぐらいだ。
「レストランになにか卸すぜ。欲しいものあるか?」
「いや、いいですよ!」
「今日の礼だ。金をだしても今日の分は受け取らないだろ? だったら食材で返す。今日はマジで助かったから」
 感謝の気持ちだとトリコは小松の片付けを手伝いながら言った。
「おまえはもっと欲が深くてもいいぞ。今日の食材費、自分の財布でレストランに払おうとしただろ」
 トリコの指摘に小松は苦笑した。お見通しである。あまりものの食材でお金をとるなど、申し訳なくて小松にはできなかった。これがレストランの客としてなら話は別だが、今回は個人としてもてなしたのだから。
(トリコさんが卸してくれるなら支配人も許してくれるだろう)
 計算高い自分に小松は呆れるが、トリコからみればかわいいものだ。
「悪かったな、まあ、いろいろ」
 閉店間際に飛び込んでとトリコがいえば、小松は「大丈夫ですよ」とこたえた。
 本当は、困ったときに頼ってもらえて嬉しかった。この気持ちは説明が難しい。独占欲かと考える自分は十分に欲が深い。
「また作ってくれよ、サンドイッチ。本当にうまかった」
 トリコのリクエストに小松は自然に笑みが浮かんだ。
「はい!」
(喜んで)
(あなたがおいしいと言ってくれるなら)

「たくさん、たくさん作りますね」

終わり

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