お酒とあなたが支配する
「あのトリコさんに身体を支配される感覚がいいですよねー」
・・・と松が言ったのでおれは飲んでいた酒を半分戻しかけるという大層美しくない真似をしてしまった。
「聞いてますか? サニーさん」
さすが酔っ払い、おれがむせても1割ぐらいしか気にせず自分の話を進める。
「・・・いや、聞こえなかったし」
聞き間違いであって欲しい。いや、品を重んじるココが澄ました顔をしてるんだからきっとおれの聞き間違いだ。
「だから、お酒って、あの酔いに身体を支配される感覚がいいですよねーって話です」
「あ、うん、そうだよ、な?」
やっぱり聞き間違いか。
「簡単に酔い潰れる奴がなにを言うー」
松のとなりを陣取るトリコは、ザルどころではない、枠だ。海だ。たまにいい酒をおごるのがもったいなくなる。
酔った小松はトリコの酒を飲み・・・撃沈した。
「おれは一足さきに部屋に戻るぜー。ごゆっくり」
まだ酒が残っている状況でトリコがお開きをするなんて珍しい。
奴は松をひょいっと担ぐ。
「ぼくは荷物じゃありませんー」
「おれに支配されるのがいいんだろ? だったら大人しく荷物にされてろ」
「はーい」
奴らは去っていった。
ナンデスッテ?
おれの酔いが一気に覚めた。
「聞き間違いじゃないよ」
ココがおれの疑問を今頃になって解決した。
「松がそんな恥ずかしいこと口にするなんて・・・」
「小松くんにとって真実なんだから嘆かない」
ココの冷静ぶりが恨めしい。
「でも多分、明日覚えてないだろうから蒸し返すのはやめなよ?」
「おれがいる前で前後不覚に酔わすのはやめておくし」
酔っ払うたびに心臓に悪いノロケを聞かされたくない。ぼやけばココが、おれ用にカクテルを用意してくれた。
終わり
豪華客馬あたり?