ちょっと怖い話
「魔獣ですか?」
トリコさんが話題にあげるので、どれほど捕獲レベルの高い猛獣かと思いきや空想の動物だった。
「魔獣に食われた人間はイクんだとよ」
「そりゃあ、食べられたら逝くでしょう?」
「そうじゃなくて、食われる度に絶頂を感じるんだ。人間は喜びながら死ぬんだぜ」
「どんなエロ小説ですか」
のんびりとココさんと三人でお茶をしながらする話題ではない。明るいうちからイクだの絶頂だの、聞かされる方は恥ずかしい。
「でも空想とも断言できないよ」
ココさんが話を続ける。
「捕食のために特殊な作用を持つ動植物もいるしね」
言われて、虹の実を思い出した。虹の実を食べる動物は己が食われようが果実を放さないという。実際の現場を見てないので真実かどうか不明だが、香りを嗅いだだけで目まいのような甘さを感じたのも確かだ。
「そうですよね。世の中想像を超える生き物っていますよね」
捕獲レベルの高い動植物は、基本的に想像を超える生態や特殊能力を持つ。トリコさんのハントについて行くようになってからぼくは知った。でも、トリコさんが言いたかったのはそんな話ではなかった。
「おまえとセックスするとその魔獣を思い出す」
ぎらりとトリコさんの目がひかる。今にも舌舐めずりをしそうな気配だ。魔獣の話が布石だとわかった安心感と、身に迫る危機感に背筋が震える。
「昼間っからそんな話はやめましょう」
そんな話がなにを指すのか濁してごまかそう。
「そうだね、トリコ。魔獣が本領を発揮するのは夜だよ」
ココさんの夜色をした瞳が深みを増す。
そういう意味で言ったんじゃありません、ココさん!
「ゆ、夕食の支度にかかります。食料庫にある食材を使ってもいいでしょうか?」
まだおやつの時間だけど、食事の支度を理由にして席を立つ。
「自由に使っていいよ」とココさんの許可をもらって隣の食料庫に逃げ込んだ。
魔獣やまだ見ぬ捕獲レベルの高い動物よりも、トリコさんとココさんの方が怖い。
セックスだけならまだしも、ふたりはぼくを溺れさせる。気持ちよくて死ぬかと思ったことは一度や二度じゃない。
怖いというのは、のろけ話になるのかな?
終わり