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WJ連載中「ト/リ/コ」の腐/女/子サイト  【Japanese version only.】

2024'11.23.Sat
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2009'07.04.Sat
ココをかっこよく演出したかったんです!

口にするのは

『死相は視えない』
 ガラス越しに室内の小松を見つめるしかできないココは、知らず歯ぎしりをした。変化に富む表情の持ち主は 今、白い顔色のまま眠りについている。ぴくりとも動かないまぶたは、ココにいやな想像ばかりさせた。

 食いしん坊のトリコが、小松は普段どんな料理を作っているのか質問したところから、彼の手料理を食す機会が訪れた。トリコが話題を振ったときに自分がいた幸運にココは感謝をする。お昼を招待された日は快晴で、今日の良き日にココは心を浮き足立たせた。
 はじめて足を踏み入れるアパートに緊張しつつドアをノックすれば、出迎える小松の顔色の悪さにココとトリコは異常を感じた。
「すみません、なんか、肉が失敗したみたいで」
 味見をした後、具合が悪くなったという小松にふたりは肉を確認した。
「ワールドキッチンで見かけない業者さんから買った肉ですけど、なんだろ、熟成が足りないのかな。痛んでいる匂いはなかったけど」
 残りの生肉を見てココの顔色が変わる。トリコも肉の異様さに気づいた。
「小松くん、食べた肉を吐き出して!」
 ココが叫んだ。
「どうしたんですか?」
 事情がわからない小松は動けなかった。焦れたトリコが小松を抱えて流し台に連行する。
「この肉は病死した動物のものだ」
 ココの視界は電磁波を捕らえる。それは無機有機、それこそ死体にも適用できる。
 彼が捕らえた視界には正常な段取りで生まれた生肉ではありえない電磁波が映った。トリコの嗅覚も異常を察知している。
 トリコは小松の口に指をつっこんで喉の奥を刺激して胃のものを逆流させた。
 トリコが小松から肉を吐き出させている間に、ココはIGOに連絡をいれて業者の洗い出しを依頼した。病死した動物の肉は、食品衛生法で流通を禁止されている。IGOの直属レストランがある土地で不正など言語道断だ。
『小松くんになにかあったら容赦はしない』
 小松には死相は見えない。だから大丈夫だとココは自分に言い聞かせる。彼は九十七%の確率で的中した死を乗り越えたトリッキーな男だ。なにが起きるかわからない不確定要素がココを不安にさせた。
 胃液の匂いが台所に充満する。小松に肉を吐き出させると病院にむかった。部屋を出る前にココは換気扇を回す。不吉をもたらす匂いを台所に残しておけなかった。

 食に関する病気はグルメホスピタルに搬送される。肉とともに小松を預ける。検査が終わる間、梅田事務局長から不正な肉を流通した業者を検挙したと連絡がはいった。世はグルメ時代。食によって命を脅かす者には重い罰が与えられる。
 検査を終え、家族のかわりにココたちが小松の病状の説明を受けた。
 薬さえ投与すれば治るだと聞いてふたりは安堵する。ただ、その薬は現在在庫がなく、よそのグルメホスピタルからわけてもらう段取りだった。
 数時間ほど待てば小松は助かる。
 ガラス越しに病室を覗くと、小松は眠っていた。顔色はよくない。でも死相は見えない。
 大丈夫だと何度自分に言い聞かせても、ココは安心できなかった。
「おまえの方が病人だな」と、トリコがココを見て言う。
ココは小松が弱っていくのを視ているしかできない自分が歯がゆかった。ふいに、寝間着から覗く首筋に浮かぶ赤い斑点が見える。説明で聞いた症状の第二段階だ。
 薬の投与で治るとわかっているがココは待ちきれなかった。苛立ちにガラスを叩けば近くに控えるスタッフがココの剣幕に怯えた。
 うつむき、何度も冷静になれと言い聞かせるがストッパーにはならない。
 顔をあげたココの目に力強さが灯る。
「止めるなよ、トリコ」
 ココは隔離された部屋の、厳重な扉を力任せにこじ開けた。ココを止めようとするスタッフをトリコが阻む。
「落ち着いてください。患者に無理をさせないでください」
 通路から聞こえる声を、壊れた扉を閉めることで遮断した。
「小松くん、聞こえる?」
 病人を刺激しないように耳元でココはささやく。小松からの反応はない。
「無茶を承知で病原菌を死滅させる薬が精製できるかどうか試したい」
 返事はないが、ごめんと謝罪の言葉を口にすると、ココは小松の顔の横に両手をついて、覆いかぶさる。唇に触れる寸前「好きだよ」と小さく呟き重ねた。
 口内に侵入した舌が熱を感じ取る。小松の唾液から病原菌を特定させる。体液を通じてココの体に進入した菌を、死滅させるため体内の血、細胞、すべてが稼動をはじめた。体を蝕む菌を排除しようとココの体内で毒が精製される。毒は薬にもなる。その良薬をココは小松に与えた。
 唾液に含ませた薬を口内へ送り込めば、小松ののどがわずかに動いた。
『治療のためか』
 小松に告白をすればよかったと今さらながら後悔する。はじめてのキスが治療のためなんて味気なくて切なさが増す。
 好きだから治療した。好きだからキスをする治療も厭わなかった。早く元気になってほしい。占いで未来が視えようが、好きなひとを心配する気持ちにブレーキはない。
「十分以上キスしてるぜ?」
 背後からトリコの声がかかる。あっという間に過ぎた時間にココは驚きつつも、小松から離れる。
「酸欠で小松が死ぬぞ」
 トリコの指摘に小松をみれば、顔がまっかだった。計器は彼の意識が戻っているのを示していいる。
 そっとまぶたを開ける小松と目があい、ココは動揺した。
「治療」だと告げれば終わるキスだ。だけど彼が実際に口にしたのは「好きだ」という一言だった。外野のトリコが冷やかすように口笛を吹く。

 台所の換気もすんできれいになっているだろう。

終わり

 

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