ホントの本当に佳境、駆け抜けろ金子な感じでよろしくお願いします。
料理陰陽師小松 其の五十四
「トリコさんのことを考えると夜も眠れないんです」
病気かと思ってココさんに相談したら・・・卒倒した。騒ぎを聞きつけたサニーさんが駆けつけてきて、しばらくココさんをひとりにするよう提案した。
美食山ではココさんの崖の住処にお邪魔している。ココさんの親切に甘えすぎていたのかもしれない。
彼らが山の四方に住処を構えているのは侵入者を防ぐためだ。どこにいてもいいと言われたが(ゼブラさんの北方だけはひとりで行かないよう注意されたけど)、簡単には誰も来ないからと言ったココさんの真意は、人間ではなくトリコさんを考えているのだろう。
ぼくはココさんに元気になってもらいたくて南方に足を伸ばした。サニーさんの住処の近くは果実が幾種類もあって穴場だ。
多めに採って干してみようと考えていたら、山のふもとまで足を伸ばしていたみたいだ。見慣れない景色になったけど、茸を発見して夢中になる。
ふいに、冷気を感じた。違う、これは殺気だ。
視線を感じて顔を上げれば、かつての仲間が立っていた。ぼくが生きている限り手出しはしないと約束を交わしたばかりなのに、何故?
穏やかな雰囲気ではない。
「何用ですか?」
一度は組んだことのある仲間だ。もっとも、ぼくが非力なせいで彼を危険に晒してしばらくは床に伏せるほどの大怪我を負わせてしまった。
彼に恨まれている自覚はある。
「たかが妖怪のためにおまえは人間の側から退くのか」
「後悔はしてません」
「己の才を無駄に殺すか?」
「ぼくの力なんて惜しむほどではありません」
効果を発揮するまでの手順が手間だ。ひとりでは敵にやられる。ぼくを庇いながらでは仲間も戦いにくく、いつも足手まといだった。
「おまえはいつも、そうやって余裕顔で・・・」
唸り声は小さかったけど、風にのって聞こえた。握る拳が奮えている。
風が唸る。それは彼の怒りだったのかもしれない。
一瞬の歩で距離をつめられ、首を掴まれたと思ったら地面に叩きつけられた。集めた果実と山菜がかごから零れる。
背中の痛みと、首を絞められる苦しさに意識が混乱する。
殺したいと憎まれるほどに嫌われていたとは考えもしなかった。
襟元を広げられ、あらぬところを撫でられて、ぼくはおかしさに気づいた。
「な、なに?」
得体の知れない恐怖に体がすくむ。
「妖怪どもの生贄にするには惜しい」
着物をはだけられ、腰紐を解かれ、緩んだ着衣が暴れるぼくの動きを封じる。
血走った目が怖い。トリコさんに似たような姿勢で圧し掛かられたときは、気恥ずかしさで頭がおかしくなりそうだったけど、これは違う。
「おれがおまえを汚す」
断言されて恐怖が増した。
思わずトリコさんの名前を叫びそうになったけど、その前に片手で口を塞がれて声がだせない。
他人の体温が気持ち悪い。
トリコさん・・・!
続く