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「マグカップ」 トリココマ
ココさんがいれてくれるお茶はおいしい。
占いのお客さんからもらったというカップ&ソーサーは高級レストランが注文するようなブランド品だ。気に入っているらしく、トリコさんとぼくをもてなしてくれるときココさんは当たり前のように使っていた。
ある日、いつもはセットで出てくるカップがココさんのだけマグカップになっていた。
落として割ったらしい。次にココさんとこへ訪れたとき新しいマグカップを渡した。
「これは?」
「ぼく用です」
置いててくださいとココさんに言えばトリコさんが拗ねた。
「おれん家には置かないくせに」
「トリコさんとこに普通の食器を置いたら危険です」
間違えて食べたら大変だ。そこまで食い意地はってないとトリコさんは言うが信用できない。
スウィーツハウスにあるもののほとんどが「食べられる」。トリコさんならうっかり普通のマグカップを「食べて」もおかしくない。
「ありがとう、小松くん、早速つかってもいいかい?」
遠慮がちに、嬉しそうに、ココさんはおかわりを用意してくれる。
「よし、おれもマイカップを持参するぞ」
「くれぐれも食べるカップは持ってくるなよ」
注意をするココさんは楽しげだ。ココさんの食器棚にぼくらのものがあるのが嬉しい。
会えない日もカップを見てぼくらを思い出して。
「Nice to meet you hello.」 トリコマとテリー
トリコさんと連れ立って歩けば、テリーがぼくを嗅ぎにきた。
生まれたてのテリーにとってトリコさんは世界の中心にいる。となりに誰かいれば気になって当然だ。
子バトルウルフとはいえ、ぼくにから見れば大型犬なのでちょっと怖いけど。さぐるように臭いを嗅ぐテリーのかわいらしさに緊張感は解けた。大きな前足がぼくの肩を押して倒れる。
一生懸命なテリーに、疑問を感じながらもなすがままのぼくだった。
(こどもだし、じゃれてるのかな?)
ぼくが呑気に考えてると、
「これ、おれのだからよろしくな」
トリコさんがテリーの首を撫でながら言った。
「わかったか?」と聞けば、理解したのかテリーは吼えて了解を示した!?
「おまえにおれの匂いが急についたから気になったんだろ」
トリコさんの説明にぼくは目まいがしてきた。誰の目があるかわからない研究所でいたすのは嫌だと抵抗したら、トリコさんはセクハラ並にぼくに触ってきたのだ。服を着たままのボディタッチは強烈にいやらしく、あやうく飲み込まれそうになった。
いや、それは横に置いておこう。
「テリーにへんな自己紹介しないでください!」
これ、じゃないでしょうが!
「わりい、恋人って言った方がよかったか? 宣言していいなら研究所に戻ってマンサム所長にも」
「違います!」
「夜目」 ココマ
「夜目はきくから」とココさんは言った。
「暗闇でも平気だよ」
特異体質を欠点ではなく、利点として捕らえている。
哀しいと思うのは何故だろう?
哀しいと思うのはココさんに失礼だ。
「でもこの暗闇は困るな」
この? 暗闇にも種類があるのか?
「問題を解決する方法は?」
あるなら協力したくて聞けば「小松くん次第かな」とココさんは苦笑した。
「小松くんが『自分も』とこたえてくれないなら、ぼくは暗闇のままだと思う」
随分とおかしな悩みだ。
「好きだよ、小松くん」
ココさんの告白は、翳りがありながらも光を感じるほどの尊さがあった。
ココさんって本当にきれいだ。
このひとがぼくに好意があるなんて信じられなくて、ココさんが幻にように思える。
ぼくでさえはっきりと見えないのだから、ココさんが暗闇にいるのは仕方ないというか、納得してしまう。
さて、ぼくはといえば、ココさんを暗闇から抜け出させたいと思うくらいの好意がある。
これが友情か愛情かなんて選択させるなんて性急だよ、ココさん。
ぼくは暗闇のなかに立ったばかりなんだから。
気づいたら全部小松視点。