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WJ連載中「ト/リ/コ」の腐/女/子サイト  【Japanese version only.】

2025'04.06.Sun
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2009'01.24.Sat

無自覚なトリコさん。


Home cooking

 小松のアパートに招待されたトリコは、相変わらずな彼の腕前に満足した。
 小松は常に味を追求するタイプだ。おいしいと合格点をだした料理を、さらに進化させる度胸ある料理人はなかなかいない。下手をすれば試行錯誤がいきすぎて料理が劣化するからだ。その点、小松は失敗を恐れない。前向きで、一度は死にかけたハントの旅に再びついて行く度胸もある。
 食べようと思えばトラック一台分の食材を軽く平らげるトリコだが、状況に応じて食べ控えもした。小松のちいさな台所でトリコ用の料理が作るのは無理な話だ。
 とはいえ十人分は軽く食べた。手土産にいつも貴重な食材を持ってくるから、材料費はいらないと小松は言う。小松を十人養ったところでトリコの財布は痛くはないが、本人がいらないと言うのを強く押し切る真似もできない。
 ささやかだが礼も兼ねてトリコは片づけを手伝う。コンロにかけられた寸胴に、野菜がいっぱい入っているのを見つけてトリコは聞いた。
「なんだ、これ?」
 まだ調理されてない寸胴の中身は、今日の料理にだされた羽衣レタス、アーモンドキャベツ、ベーコンの葉のへたといろいろある。
「クズ野菜ですよ。外側って傷んでたり、恰好がつかないものが多いじゃないですか。捨てるのはもったいないのでスープのダシにします」
 小松の説明にトリコは目から鱗が落ちる思いだった。食材の余った部分を、このように使う発想が今までなかったのだ。
「食べたい」と欲求のまま言えば、
「お客様にだすものじゃないですから」とやんわり断られた。
 断られたことより、断りの理由にトリコはショックを受けた。

「ひどいと思わないか」
「思わない」
 泣き言に選んだ相手は、占い師ではあるがトリコの相談役には不適格な人物だった。
「小松くんは料理人として賄い料理をおまえにだしたくなかったんだろ。その気持ちを察してやれ」
 逆に責められたがトリコも負けない。
「お客様って言われたんだぞ、おれは」
「本当のことだろ」
 うるさげに、それでもココはトリコに次々とお茶とお菓子をさしだす。トリコは嘆きながらも食欲旺盛な男だった。
「おまえがショックを受けたのはわかったが、なににショックを受けたのかはっきりさせてから相談に来い」
「ココってば冷たい」
「気持ち悪いから泣き真似はよせ」
 本気で嫌がるココに少し気分が良くなったトリコは、改めてショックの原因を考えてみる。
「お客って言われた」
「それは聞いた」
「他人行儀だ」
「他人だろ?」
「なんつーか、それがいやだった」
「何故?」
 占い師を副業に営むココは誘導が巧みだ。トリコはテンポのいい会話に流されるまま、話を続ける。
「外じゃなくて内側にいれてほしい」
 自分でもロマンチストに思える台詞が、するりとでてきた。ゼリーが咽を通るような滑らかさだ。
「ずいぶんと小松くんの内側に入っていると思うよ。家に招いてフルコースなんてそう簡単にできるものじゃあない」
「でもおれは、小松の普段の料理だって食べたい」
 強く言えばココが呆れた顔をした。最近、ココと話をすると呆れ顔をされることが多い。
「我がままだな。小松くんに交渉すればいいだろ? いや、この場合お願いだな。しっかり頭を下げてこい」
 投げやりに言うココにトリコは文句を言うが、「占いの邪魔だ」といって追い出された。それでも最後に「思い立ったが吉日だろ」とトリコの背中を押してくれた。
「そうだな」とトリコは自分でも思う。
 駅への道すがら、夕食の買出しにむかう親子の会話が聞こえた。
「この前のカレーライス・・・」
 家庭料理の代表的なものだ。家庭によって味は違う。レストランや専門店で食べるカリーはスパイスが効いているものだ。
 小松のくだけた料理。腹が減った時に自分で作って食べる料理をトリコは知らない。
 彼のひととなりを知っているだけで、プライベートは聞きもしなかった。料理人小松ではなく、小松個人がなにを得意料理とするのかも知らないなんて、気づいた今となっては笑えない現実だ。
 知りたい。
 理由はわからなくても、湧き上がる衝動と「思い立ったが吉日」を座右の銘にする男は迷わなかった。

「おれはおまえのごはんと味噌汁が食いてえ!」
 家庭料理の定番を例にあげてトリコが叫べば、
「肉は? 魚は? 具合でも悪いんですか?」
 小松は体調の心配をした。トリコを脱力させて膝をつかせるのは世界広しといえどこの料理人だけだろう。
 普段の料理も食べたいとトリコが気を取り直して説明すれば、小松は理解できないのか首をかしげる。
「時間がある時は煮物ぐらい作りますが、普段はレストランで余った食材を適当に炒めて食べるだけですよ。朝だってレストランからもらった日にちがたったパンを食べる程度ですし」
 小松の食を提供する情熱は、ひとに対してだけだった。
「それでもいい、つーか、おまえが作るものならなんでも食いてえ」
「ありがとうございます」
 礼を言う小松はやはり料理人の顔をしていて、トリコが本当はなにを欲しているか気づいていない様子だ。
「今度肉じゃが作りましょうか? 小松家流、甘くない肉じゃが」
 小松が楽しげに言う。
「うちは煮物に砂糖をいれなかったので甘くないんですよ」
 家庭を話す小松の顔は優しい。
「食べたい」といえば、今度は素の表情で小松がうなづいた。
「それにしても、ごはんと味噌汁が食べたいなんて、プロポーズの定番をトリコさんが言うから驚きました」
 何気ない小松の一言が答えな気がして、トリコは再び目から鱗を落とすのだった。

終わり
 

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