おそらくココが悶々とする話になる予想・・・。
予想って!
「日々に転がるダイヤモンド02」
「お待たせしました」
コックコートから私服に着替えた小松が、トリコとココが待つホテルのバーに現れたのはかろうじて日付が変わる前だった。
バーで飲むにはラフな恰好だが、小松の人柄か同僚のよしみかバーテンダーが咎める様子もない。
ココは座っていたツールをずらしてトリコとの間に小松を座らせた。トリコが移動しなかったのは彼の前には大量の皿があるからだ。カウンターの狭いスペースにふんだんに置かれた皿はトリコ専用のつまみだ。ココの前に置かれているのはお茶のみだ。
小松はメニューを見ずに注文をする。
「新作のオードブルと、それにあうお酒をお願いします」
度数は低めで、と付け加えるのを小松は忘れない。
「慣れてるね」
酒を飲むイメージがないだけに、店に慣れた様子にココは意外に思えた。
「同じホテル内の店なので、懐が痛まない程度には来ますよ」
ホテル内の店で新作メニューが出たら小松は店に行き食事をする。
もちろんメニュー化される前の品評会で小松は試食をしているが、試食と店で食べるのは別というのが言い分だ。
「うまそう」と喜色を浮かべたのはトリコだった。
2種類のオードブルは、スコーンのカナッペと野菜のプチフラン3種盛りだ。
甘いシャンパンの香りが食欲をそそる。
「小松くんのだぞ」
小松の向こうでトリコに牽制する。
「よろしければ」とバーテンダーがトリコの前に小松と同じ料理を出した。
「ココさまは?」とココに伺うが、彼は小松の料理でお腹は満たされていたので断った。
「じゃあ、一口どうぞ」
小松がカナッペをココにさしだした。まるい生地の上にクリームチーズとストライプサーモンがのっている。
「おいしいですよ」
小松の誘い言葉に引かれるようにココは食べた。小松の料理を食べた後では味が霞むと思っていたココだが、素直においしいと感じた。
プリン型のフランはにんじん、グリンピース、マッシュルームと色も鮮やかで素材の味が生かされている。
「肉ばかり食べるトリコにはいいかもな」
トリコを皮肉るココは楽しげだ。すでに皿の上が空のトリコは「うるさい」と言い返す。
料理の話題に花を咲かせ、日常の話も交えて楽しむ。小松の話は平凡だが、それでも楽しさに時がたつのも忘れる。
日付が変わる頃、小松は席を立った。明日も仕事の彼を遅くまで引き止められない。
ホテルに泊まるトリコとココは、ここで小松とお別れだ。
「小松くん」
思わずといった感じでココは声をかける。かけた声はひっこみがつがず、ココは意を決して最後まで言葉を口にした。
「家まで送るよ」
「大丈夫ですよ、女性じゃないんですから」
小松はココの親切に礼を言うが、トリコが盛大なため息をついて冷やかした。
「小松ぅ、それじゃあ女にもてないぜ?」
「なんですか? いきなり」
意味がわからず膨れる小松と、その横でココがトリコをにらむ。
「意味を知りたいならココに聞けよ」
「教えてください!」
話題を振られてココは戸惑う。(なんのつもりで)とトリコを恨む気持ちが沸いた。
「ここで聞くな。帰りがてら教えてもらえ」
トリコの追い出されるかたちでふたりはホテルをでた。かなり不自然な流れだが、後はココがうまくやるだろうとトリコは丸投げする。
(一緒にいたいって気持ちを汲み取れないんだから、鈍いっつーか、察しが悪いよな)
もう少しバーで飲むつもりだったトリコだが、品切れを理由に店を出ざるえなかった。
果たしてココが戻ってくるかどうかは、ココ次第。
続く