「急降下する恋の話」
小松くんとトリコと三人でハントにでた。はじめて見る食材に小松くんは興奮している。きらきらした目に負けない電磁波が彼から視えた。
大きな動物ではなかったので、この場で解体して食べようと話がまとまる。
「調理してみるか?」とトリコが言えば、小松くんの電磁波が緊張したものに変化する。
「いいんですか?」
おいしいものをすぐ食べようとするトリコは、基本は焼くか生か、食べ方はシンプルでワイルドだ。今回は共同のハントだったため、ぼくや小松くんの意見もとりいれた。
「頼むぜ、うまいもの作ってくれ」
トリコの期待に、小松くんは「はい」と大きくうなずいた。ふぐ鯨をさばくのを承諾したときの決意と同じ強い意思を感じた。
厨房のように器具もままならない状況で、できる限りの技を駆使しておいしいものを作ろうとする小松くんはかっこいい。
解体を終え、下準備の段階になったので薪を集めるためぼくらはその場から離れた。
「どうかしたか?」
トリコが声をかけてくる。
「・・・今日、トリコがいて助かった」
「意味がわからねえんだけど」
結果をさきに言うぼくに、当然ながらトリコは理解できなかった。
「小松くんの電磁波があまりにもかっこよくて、ふたりきりなら危険だって本当に思ったんだ」
切々とぼくはトリコに訴えた。
「どう危険なのか理解したくないが、確かにおまえの思考は危険だな」
「素敵だ、小松くん」
ふぐ鯨をさばく小松くんの緊張感は、彼の気合でもあり、それを目の当たりにしたぼくは彼に指示をするのも忘れて見惚れそうになった。今も高級食材をさばく小松くんは緊張間が漲っていた。緊張感をマイナス的思考にもっていかない小松くんは凄い。料理への誠実な心を感じた。惹かれない訳がない。小松くんの優しさの核が料理と重なる。
洞窟の砂浜で別れた夜、会ったばかりのひとを、トリコの友人を思い浮かべて自分を慰めたのは余談だ。
「小松に変なことするなよ」
ぼくと同じで他人に関心がないトリコにしては、珍しく誰かを思いやっての忠告だ。
「しないよ」
まだ、と心のなかでぼくは付け足す。ぼくのなかのふわふわとした感情が、定まり安定するまでは。
思い立ったが吉日の男には理解できない思考だろうけど、ぼくにはぼくのやり方がある。
とりあえず今は、おいしい料理のために火をおこすべく薪を集めよう。
(それは急降下のような恋)
終わり