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ジンジャーくん
夜中、ココさんがアパートにやってきた。
「お腹がすいたな、小松くん」
真冬、キッスで夜空を越えてやってきたココさんに必要なのは食事より暖だ。
ぼくは慌ててココさんの手を取るけど、冷たくはなかった。
これは、夢だ。
…ぼくがココさんの夢を見るようになったのはいつの頃からだろう。
深夜にアパートを来訪するなんて無作法を、ココさんはしない。
「頻繁、だなぁ」
原因がわかるような、わからないような…。
ホテルの装飾がクリスマスを急かしているようだ。
わくわくしながらも気持ちが落ち着かない。
クリスマスはばっちり仕事だ。年明けまで暇はない。ぼくの予定は毎年「職場」の一言で埋められていて、料理以外することはないけど。
ココさんはどんなクリスマスを送るんだろうって、考えてしまう。
夢は、ぼくの願望だ。
クリスマス前の最後の休日にぼくはクッキーを作った。
生姜、抹茶、苺。
ジンジャーマン、クリスマスツリー、サンタ帽。
「うまそー」と遊びに来たトリコさんが嬉しそうな声をあげる。トリコさんは巨体に似合わず心が少年で、この手のイベントが大好きだ。
「トリコさんのぶんはこれです」
クッキーをひとつひとつフィルムで包んでトリコさんに渡す。
いくつかセットを作ってプレゼント用のグルメケースに入れた。
「ジンジャーマン、多くねえか?」
「寒いですからね、みんなが暖まるように」
生姜のあったか作用でココさんが暖まりますように。
『お腹が減った』なんて寒そうなココさんの夢は見たくない。
自分のなかのいろいろな感情をクッキーを送ることで誤魔化す。
クッキーをおいしいと思ってくれて、ハッピーな気持ちに少しでもなってほしかった。
そう思うだけでぼくが見るココさんの夢は暖かいものに変わるだろう。
数日後、現実にココさんがアパートに来てびっくりした。
「きみが恋しくなったよ」
夢と違って台詞は違うけど、夢のような一言にぼくは熱がでそうだ。ジンジャーマンのあったか効果は、変化球で自分のもとに返ってきた。
終わろう