料理陰陽師小松 其の二十六
「おれらはおれらで身を守るし、松の力を頼るほど貧弱じゃねーし」
夜中、狐姿で現れたサニーさんは上から目線で言ってくれた。
ちょっと前にココさんも来た。彼らが頻繁に都に降りてくるなんてなにかおかしい。
「あの、トリコさんは?」
ココさんからトリコさんの話は聞かず終いで、結局様子はわからない。
狐の表情は簡単に読めないけど、サニーさんがためらっているのは伝わってきた。
前足でぼくの肩を押したサニーさんは、器用にも獣の足で寝間着をはだけた。
「ちょ、さ、サニーさん?」
「式神がやられたせいか?」
ぼくの胸のあたりに残る黒い痣を見たサニーさんが聞いた。
ココさんの様子がおかしくて、式神のふぐ鯨を使ってトリコさんに会いに行ったものの、はじかれた。
術の影響がぼくに及ぶのは当然の代償だから仕方ない。
ふぐ鯨をはじいたのはトリコさん。
何故?
「今、あいつは食の周期が高まって苦しんでいる。おまえを喰う衝動が怖いんだ。あいつのためにも美食山に来るな。おまえがいなくなって一番苦しむのはあいつだから」
サニーさんは辛そうだった。
彼らは仲間であり、家族だ。
家族や、養い親もいなくなったぼくには羨ましい関係だ。
彼らの平穏を乱したのはぼくかもしれない。
都を荒らす妖怪を美食會ではなくトリコさんたちだと思って山に入ったから歯車が狂いはじめた。
ぼくだって、陰陽師の身でありながら妖怪に会うのはいけないとわかっている。
彼らのために料理屋や菓子を作るのは凄く楽しい。
でも、ぼくは…、
「トリコさんに会いたい」
会って、いろんなことを話したい。話さなくてもいい。傍にいたい。
穏やかならぬこの衝動を、なんて呼べばいいんだろう? もどかしくて辛い。
「松…」
サニーさんがぼくの頬を舐める仕草が慰めてくれているようで涙がでそうだ。
そのとき部屋の障子が開いた。
「妖怪め!」と叫ぶ声にひとが集まる気配を感じる。
「逃げてください」
ここで彼が暴れたら美食山の妖怪を退治する理由を与えてしまう。
サニーさんは悔しそうに唸ると、虹色の毛並みを瞬かせ夜の闇に消えた。
「どういうことだ、小松」
残るは仲間の疑惑の視線。
続く