「chocolat de cosmos」
「チョコレートでコスモス?」
「chocolat de cosmos。菓子に使う香辛料となる花の名前だ」
「すみません、お菓子には明るくないのではじめて聞きました」
小松は恥ずかしそうにこたえるとトリコに尋ねた。
「その香辛料を使ったお菓子を食べたことがあるんですか? 依頼ですか?」
「個人的に」
トリコにしては珍しく歯切れが悪い。個人的に採取に行くほど魅力的なのかと想像するだけで小松は興奮した。
「ついて行ってもいいですか?」
「別におもしろくないぞ? ちょっと秘境なだけで捕獲レベルはついてない」
トリコの説明に、食材は捕獲レベルで決まる訳ではないと小松は言い切った。
思案顔でトリコは同行を認める。chocolat de cosmosになにがあるのか小松は気になりつつも、トリコについていった。
道中、小松はトリコから花の説明を受ける。
「2月に咲く花で、種を粉末にして香辛料の材料にする。花びらはチョコレート色。香りもカカオで、コスモスに似ているのが特徴だが、チョコレートそのものじゃあない」
「普通に栽培できそうですね」
「普通のカカオ風味がいならカカオで充分だ。chocolat de cosmosの天然ものは風味や他の成分が変わるから少し特殊だ」
妙に無言のトリコとともに、体力的な苦労以外は難なく生息地にふたりは辿りついた。種をつける花の残骸のなかに遅咲きの花が咲いている。名前にふさわしくチョコレート色だ。
トリコは細長い種を指でつまむ。
「チョコレートの効果って知ってるか?」
「ポリフェノールですか?」
「催淫効果」
種をみせつけるようにトリコが小松に指をさしだす。
「はい?」
「chocolat de cosmosの種は催淫効果が高い。種を一粒粉末にし食せば一晩は疲れ知らずだ」
「は、あ・・・?」
セックスは常識的な範囲でしか知らない小松は、トリコの解説に頬をあからめる。
個人的な目的で種を取りにきたトリコの真意を、小松は考えるがこたえは見つからない。
「安心しろ、おまえに食べさせる危険な真似はしない」
トリコは小松の目の前で種を口にいれた。そして見せつけるように、大きく口を動かして種を歯ですり潰す。喉仏が動くのを小松は目で追った。
「トリコさん?」
「言い訳をやるよ。催淫効果でとち狂ったおれにやられたんだってな」
近づくトリコからむせ返るようなカカオの香りがする。気づけば唇が重なっていた。圧倒的な力の前で小松は無力だ。
催淫効果か、熱に浮かされたようにトリコが小松を呼ぶ。外気は寒い時期だというのに、熱い抱擁が小松を襲った。
「chocolat de cosmosの催淫効果? デマだよ」
ココなら種の成分に侵されないのかと思い小松が聞けば、衝撃的な一言が返ってきた。
「催淫効果がふんだんにあるものなら、麻薬のように厳重に管理される。たしかにチョコレートは催淫効果があるといわれるけど、実際はそこそこかな」
「う、そ・・・」
では、あの時のトリコの激しさをなんと呼べばいいのだろう?
小松は呆然とした。そして魂が抜けかけの小松に、なにがあったか察したココはとどめの一言を口にする。
「トリコにいっぱい喰わされたね」
鈍器に殴られたに等しいココの指摘だ。
「どんな顔してトリコさんに会えばいいんだー!」
床にしゃがんで小松は頭を抱える。あの時、気持ちよかったのだから小松はトリコに文句も言えない。「うー」だの「うおー」だの呻く小松は、ココの「あいつも素直じゃないからなぁ」といいう呟きは聞こえなかった。
小松の、悪く思っていない反応を見たらトリコはさぞや舞い上がるだろう。見れないのを悔しがればいいとココは思う。姑息な手段を使ったトリコを、自業自得だとココはコンマ数秒で切り捨てた。
遥か離れた地で青い髪の美食屋が、くしゃみをしたとか、しないとか。
終わり
チョコレートコスモスという花はあります。
(コスモスで花びらはチョコレート色)
チョコ好きの私としてはおいしそうだったので植えましたが、うまく育たなかった苦い記憶があります。