この、書きたいシュチュエーションのためここまで来た感じです。
終わりが見えてきた!
12/時を駆ける小松
『おれの方こそ悪かった』
トリコさんの謝罪の意味もぼくはわからなかった。
『おれを心配するおまえを否定したこと、ずっと後悔していた』
ぼくをまっすぐに見るトリコさんに、ぼくは長年のつかえが取れた。その言葉だけで充分だと思う。
『おれを心配するのは仲間ぐらいしかいなかったから、おまえが心配するのを、どう受け止めたらいいのかわからなかった』
すまなかったと、トリコさんが謝る。
「ぼくはずっと、あなたが幸せに過ごせたらいいと願ってきました。苦しみで夜も寝られなかったらどうしよう、哀しみで押し潰されたりしないか。あなたが簡単にへこたれるひとでないのはわかっていても、心配でたまらなかったし、救いたかった」
涙が溢れてぼくの頬を濡らす。
「無力な自分が本当にいやだった」
過去に戻ってトリコさんに干渉したら、トリコさんの境遇を変えられるかもしれないと思って怖かった。けれど、結局は自分はなにもできていない。
トリコさんは変わらずバトルコロシアムで闘い、変な実験データを取られたり、危険な地区に放り込まれた。トリコさんらの運命に関わるカーテンを払えない。変わらない未来に安心すればいいのに胸のもやもやは残ったままだ。
なんのためにぼくは過去に来たのだろう? 理由があるなら世界に問いたい。ぼくはなにもできないから。
『幸せって言うけど、おれはそんなに不幸に見えるか?』
トリコさんが不思議そうに聞く。
「・・・望んでこの環境に来たのですか?」
その可能性を考えてなくて、ぼくは聞き返した。
『そうじゃないけど、幸せじゃないなら不幸ってのも短絡的じゃねえの?』
諭す言葉はトリコさんの優しさに聞こえた。
『庭はおれにとって楽園じゃないけど、地獄でもない。腹の立つことが山のようにあっても、差し引きプラスになるいいこともあった。結果として楽しかったことの方が大きいぜ』
トリコさんは淡々と話す。強がりや、嘘が感じられない瞳の強さだ。
『ここでの生活は悪くない。ダチもいる。妹分もいる。酔いどれ親父もいる。うまい飯もある。おまえがこうして、おれを心配してくれる』
ありがとよ。トリコさんは優しく、ぼくに言った。
神様。
祈りたくなる。感謝したくなる。なんて言えばわからないから、天上のひとに捧げたい。
神様、ぼくに、過去のトリコさんを見せたかったのでしょうか? そうでなければ、過去に来た意味がわからない。
トリコさんは不幸じゃない。
『泣いてばかりだな、おまえ』
嬉しくてもひとは泣くのだと、ぼくは言いたかった。
ふいに視界がぶれる。
焦ったふうなトリコさんを見たのが最後だった。
続く